本コンテンツは腎臓病食の一例を紹介しております。摂取可能な栄養量については、患者さんごとに異なっております。ご自身が摂取可能な量については、主治医にご相談ください。
今回は、エスポワールのオーナーシェフ・藤木さんによる、春ならではの食材をぎゅっと詰め込んだフレンチコースをご紹介。タンパク質や塩分を抑えながら、いかにおいしく、楽しく召し上がっていただけるかを、スタッフとの熱い議論で創り上げました。特別な日の食ながら、患者さんの日々の食事に役立つノウハウも披露していただきます。
メニュー開発には自由な構想と緻密な栄養計算が欠かせない
メニューを開発する際には、「お客様に旬の味を最大限楽しんでもらうこと」を前提に、栄養制限を気にせず、自由な発想でメニューの全体像を描くことから始めます。そこから、管理栄養士資格を持つシェフの坂本と膝詰めで、食材の変更、調理法などを丹念に検討していきます。
腎臓病の方の食事制限は、重症度などによって数値が異なるので、患者さんそれぞれの摂取可能な栄養素の量をあらかじめ伺って、タンパク質、塩分、カリウム、リンなどの制限を明確にします。なかでもおいしさの決め手であるタンパク質と塩分を抑えなければならないので、それを補うために、食材の持つ味、食感、見た目、香りなどを総動員する工夫が重要です。
タンパク質17.4g、塩分3.3gの春の味覚を存分に楽しめるフルコースを実現
一般的なフレンチのフルコースは1食で2000kcalを超えるものや、メインディッシュだけでタンパク質が40g以上のものもあるなど、「腎にやさしい食」にはほど遠いイメージがあります。
今回のコースでは、食材の持つうまみを活かしながら、いかにして低タンパク質、低塩を実現できたのかを、調理のテクニックを交えて紹介していきます。
海のミネラル カクテル仕立て
4つの味の層は、低タンパク質な「寒天」の濃度を変えて
一般的なジュレは、動物性タンパク質を主成分とするゼラチンを使いますが、タンパク質を抑えるため、替わりに「寒天」を使いました。
この一品では、じゃがいも、季節の青のり、オマールえび、甘えび4種類の素材をそれぞれ寒天の濃度を変えて固めることにより、異なる食感で味わっていただくことができます。さらには、4つの層が生まれることから、見た目にも楽しい一品に仕上げました。
寒天は、腎臓病食にとっては、欠かせない食材です。
ご家庭でも上手に取り入れて、食卓に彩りを加えてみてはいかがでしょう。
この料理の栄養量
エネルギー | 47.12 kcal |
タンパク質 | 1.39 g |
塩分 | 0.51 g |
カリウム | 78.84 mg |
リン | 26.14 mg |
水分 | 62.36 g |
材料
-
じゃがいも
10g
クリーム
4g
牛乳
16g
青海苔
1.25g
白バルサミコ酢
0.38g
水 青海苔用
12.5g
エビパウダー
0.2g
水 エビパウダー用
10g
ジュ・ド・オマール
16.67g
塩 ジャガイモ
0.2g
塩 青海苔
0.06g
塩 エビパウダー
0.05g
カリコリカン ジャガイモ
0.02g
カリコリカン ジュ・ド・オマール
0.17g
カリコリカン 青海苔
0.04g
- 作り方
-
1ジャガイモの寒天を作る。ジャガイモを蒸し、裏ごしする。
2牛乳と1を合わせ塩、胡椒をする。
3寒天を入れよく混ぜる。火にかけてひと煮立ちさせる。
4型に流し冷やし固める。
5海苔の寒天を作る。水に寒天を入れよく混ぜ、火にかける。
6ひと煮立ちした所で火を止めワイン酢、塩、青海苔を入れ均一になるようにサッと混ぜる。
7型に流して冷やし固める。
8海老パウダ―の寒天を作る。水に寒天を入れよく混ぜる。火にかける。
9ひと煮立ちしたところで海老パウダ―を入れ均一に広がるように混ぜる。
10型に流して冷やし固める。
11ジュ・ド・オマールの寒天を作る。海老のだし汁に寒天を入れよく混ぜる。火にかける。
12ひと煮立ちしたら型に流し冷やし固める。
13それぞれの寒天をカクテルグラスにそうになるように重ねていく。 ジャガイモ→海苔→海老 出汁→海老パウダ→ジャガイモ→オリーブ油
14最後にオリーブ油を上からかける。
ほたるいかのベニエ 春いちごのソース
フレンチの天ぷらには、衣の低タンパク小麦粉と「ビール」が決め手。
「ベニエ」とはフレンチの天ぷらのようなもの。
旬のほたるいかの味を衣に閉じ込め、口の中で広がるようにしました。衣には、水の代わりにビールを使って、フワフワした食感と、独特の苦みを加えています。低タンパク小麦を使用することはもちろんですが、今回は、ノンアルコールビールを使いました。
添えた長ねぎは、オリーブオイルと塩をふってホイルに包み、オーブンで40〜50分加熱しています。この時期の長ねぎは甘みが強く、じっくり焼くとその甘さが引き立ち、塩分を抑えてもおいしく召し上がっていただけます。
ご家庭でも、天ぷらなどには、ビールを加えて、いつもよりふっくらした食感を楽しまれてはいかがでしょう。
この料理の栄養量
エネルギー | 156.25 kcal |
タンパク質 | 2.97 g |
塩分 | 0.44 g |
カリウム | 170.27 mg |
リン | 47.64 mg |
水分 | 81 g |
材料
-
長ネギ
50g
いちご
10g
ホタルイカ
15g
卵白
5g
なたね油
5g
ビール
10g
低たんぱく小麦粉
5g
オリーブ油(ネギソテー)
3g
オリーブ油(ソース)
3g
塩(生地に混ぜる)
0.2g
デスプレット
0.5g
塩 ネギ用
0.1g
- 作り方
-
1長ネギに塩をふり、オリーブオイルをかけアルミホイルで包んでオーブンで30分程蒸し焼きにする。
2ホタルイカの目(硬いもの)を取り除く
3生地を作る。ボールに低たんぱく小麦粉、デスプレット、塩、ビールを入れだまが残らないように泡立て器で混ぜる。
4卵白を泡立てる。
5と4を合わせゴムベラでさっくりと合わせる。
6ホタルイカを揚げる。ホタルイカに5の生地をつけて180℃の油で揚げる。
7生地がきつね色になったところで、油から取り出す。
8ドレッシングを作る。 ミキサーにイチゴとオリーブ油を入れよく回す。
皿にの長ネギをのせその上にのホタルイカをのせる。ドレッシングを回しかける。
春野菜のグラティエ
春の訪れを告げるふきのとうの風味を効かせつつ、低タンパク、低リン素材を用いて
ふきのとうの苦みと薫りを生かしたフレンチのグラタンです。ベシャメルソースには低リンミルクを用い、コクを出すために低タンパク質・低リンのマヨネーズを加えています。メニュー開発には、治療用特殊食品(病気治療のために成分を調整した食品)の活用も積極的に取り組んでいます。
治療用特殊食品も日進月歩で改良を重ねて選択肢も増えています。
毎日のメニューにも活用されてはいかがでしょう。
この料理の栄養量
エネルギー | 129.34 kcal |
タンパク質 | 1.78 g |
塩分 | 0.33 g |
カリウム | 159.5 mg |
リン | 34.3 mg |
水分 | 87.81 g |
材料
-
カリフラワー
5g
玉ねぎ
10g
な花(黄色い花が咲いているもの)
10g
フキノトウ
5g
ブロッコリー
10g
バター
3g
塩
0.2g
白コショウ
0.1g
低たんぱく小麦粉
3g
低リンミルク
10g
低たんぱくパン粉
0.5g
水(調乳用)
50g
マヨネーズ
10g
- 作り方
-
1カリフラワー、玉ねぎ、ブロッコリーを柔らかく蒸す。
2菜花はアクが強いので茹でる。 氷水に取り冷ます。
3ホワイトソースを作る。鍋にバターを入れ溶かす。低たんぱく小麦粉を入れ炒める。
4冷たい低リン牛乳を少しずつ3に入れながら泡立て器でダマにならないように混ぜていく。
54に塩、白胡椒を入れる。
61と2の野菜をマヨネーズと和え、器に盛る。5のホワイトソースをかける。
7低たんぱくパン粉を振りサラマンダーで焼く。
信州産2色のアスパラガスのアンクルート
アスパラガスの風味を閉じ込める調理法で、塩分控えめながらもおいしく
アンクルートとは、日本料理で言う「塩釜焼き」のようなもの。
アスパラガスを塩分が強めのパイ生地で包んでじっくりと焼き上げることで、食材の香りとうまみが凝縮されます。また、生地とアスパラガスの間に笹の葉を挟むことで、ほどよい塩分に抑えられます。
味ばかりではなく、目で見て楽しんでいただけるよう、低タンパク質パスタは目の前で茹で、焼きあがったパイから、アスパラガスを取り出し加えます。
食の楽しみをより高めるため、提供の仕方を工夫することもお勧めです。
レストランほどではないにしても、ちょっとした一工夫で、日々の食卓を楽しくできるといいですよね。
この料理の栄養量
エネルギー | 117.56 kcal |
タンパク質 | 4.48 g |
塩分 | 0.58 g |
カリウム | 237.8 mg |
リン | 70.82 mg |
水分 | 182.06 g |
材料
-
はちみつ
4g
アスパラ白・緑合せて
65g
ムール貝
10g
アサリ(殻付)
10g
白ワイン
40g
デンプンパスタ
10g
フュメ・ド・ポワソン
60g
笹の葉っぱ
2〜3枚
- 作り方
-
1アスパラの皮を引く。
2アンクルートの生地でアスパラを包む。生地の表面に卵白を塗る。
3オーブンの温度を200℃にし、2を焼く(30分)
4ソースを作る。鍋に白ワイン、はちみつ、フュメ・ド・ポワソンを入れ沸かす。少し煮詰める。
5別鍋でデンプンパスタを3分茹でる。4の鍋に茹で上がったパスタと貝類を入れからめる。
61を皿に盛り付ける 7、3を生地の中から取り出し6の上に盛り付ける。
春キャベツと牛肉のファルシー ラビゴットソース添え
低タンパクな「牛バラ肉」に低タンパク米を混ぜた工夫の一品
甘みが増す春キャベツでファルセット(包む)したフレンチ版ロールキャベツ。
タンパク質のかたまりとも言える肉料理にはひときわ工夫を凝らす必要があります。今回は、高タンパクな赤身部分が少ない「牛バラ肉」に、でんぷん米を混ぜ込んだものを、春キャベツで包み、オーブンでじっくり焼き上げました。
でんぷん米を入れることで、ボリューム感が増し、また、肉のうま味を閉じ込めてくれます。
食べたという満足感と肉のおいしさが口中に広がる感じを楽しんでいただけます。
ご家庭で作られるハンバーグなどでも、このテクニックは応用できますね。
この料理の栄養量
エネルギー | 361.69 kcal |
タンパク質 | 5.04 g |
塩分 | 1.34 g |
カリウム | 308.42 mg |
リン | 61.63 mg |
水分 | 101 g |
材料
-
じゃがいも
5g
キャベツ
30g
玉ねぎ
15g
パセリ
1g
ピーマン赤
10g
ピーマン黄
10g
牛バラ
35g
ドレッシング
20g
こしょう黒
0.1g
でんぷん米
10g
オリーブ油(玉ねぎ)
1g
塩(肉用)
0.2g
塩(玉ねぎ用)
0.5g
ヤーコン
15g
なたね油(ジャガイモ)
3g
- 作り方
-
1でんぷん米を水につけておく。(2時間)
2キャベツを茹でる。柔らかくなるまでしっかりとゆで氷水にとる。水気をふき取り、軸の厚い部分を取り除く
3玉ねぎをみじん切りにし、塩、オリーブ油をかけ電子レンジで火を通す。冷蔵庫で冷ます。
4バラ肉を挽肉にしボールに入れ玉ねぎ、でんぷん米、塩、胡椒を入れよくこねる。
51のキャベツで包みオーブンで焼く。
6ラビゴットソースを作る。パセリ、パプリカ赤・黄、ヤーコンをみじん切りにする。
7ボールにビネグレットソースを入れ6を入れて混ぜる。
8ジャガイモのチップを作る。ジャガイモの形を整え180℃の油で揚げる。
9皿に4等分に切った5を盛り付けくしで刺して止める。周りに6のソースを彩りよくかけ、キャベツ包みの断面に8を飾る。
春いちごのスープ 淡雪仕立て
季節のフルーツをモチモチした寒天で包んだ見た目にも楽しいデザートスープ
季節のいちごをおいしく召し上がっていただく、デザート感覚の水まんじゅうです。こちらも、ゼラチンは使わず、モチモチした食感が出る寒天で包んでいます。見た目と食感、なにより、いちごのおいしさを十分に味わっていただきたいと思って考案しました。腎臓病食でカリウム制限があると、フルーツはよくないのではと心配されるかもしれませんが、コースの全体量を緻密に計算することで、取り入れることはできます。いちごにはカリウム以外にもビタミンCが豊富に含まれていますし、なにといっても、春の味覚の代表格です。食のおいしさの基本である旬のおいしさを楽しんでいただくことも大切です。
デザートにも大活躍の寒天で、季節のフルーツを加えたスイーツをご家庭でもお試しいただけるといいですね。
この料理の栄養量
エネルギー | 257.14 kcal |
タンパク質 | 0.38 g |
塩分 | 0 g |
カリウム | 77.13 mg |
リン | 14.33 mg |
水分 | 177.1 g |
材料
-
いちご
40g
白ワイン
15g
ミント
1g
グラニュー糖(露草用)
45g
寒天
13g
水(露草用)
100g
水(スープ用)
15g
グラニュー糖(スープ用)
15g
- 作り方
-
1白ワイのシロップを作る。鍋に水、白ワイン、グラニュー糖、を入れ火にかける。沸騰したらミントを入れ蓋をして蒸らす。
23をしっかりと冷ましイチゴと一緒にミキサーにかける。
32をボールにとり冷凍庫で冷やし固める。(20分おきに泡だて器でかき混ぜシャーベット状にする。)
43をラップで包んで茶巾型にする。冷凍庫で完全に凍らす。
51を鍋にあけ露草をかき混ぜながら入れていく。火にかける。粘りが出てきたら3分ほど練る。
6に5を半量流し4をそこに入れる。残りの5を上からかけて蓋をする。冷蔵庫で冷やす。
パート・ド・フリュイ・ポム
フレンチの定番菓子も、素材次第で楽しい一品に
一般的な「パート・ド・フリュイ・ポム」は、砂糖をふんだんに使用したフルーツゼリーで、普通には提供できる栄養価ではありませんでした。
とはいえ、フレンチコースを提供するものとしては、なんとしても加えたいという思いから、試行錯誤を繰り返し完成しました。
低カリウムのりんごジュースを、寒天に「こんにゃく粉」を加えることで、このお菓子特有のネットリ感を実現できたのです。
今までは、栄養価的に難しいとされていたものでも、素材をうまく組みあせて楽しんでいただけるといいですね。
今後も、新しいメニューの開発に取り組んで、ご紹介できればいいと思います。
この料理の栄養量
エネルギー | 19.01 kcal |
タンパク質 | 0 g |
塩分 | 0 g |
カリウム | 0.43 mg |
リン | 0.5 mg |
水分 | 10.58 g |
材料
-
寒天
(寒天クック0.1g:イナゲル0.2g)0.3g
低カリウムリンゴジュース
9g
グラニュー糖
0.7g
水
2g
グラニュー糖(衣用)
3g
- 作り方
-
1寒天、水、グラニュー糖、リンゴジュースの1/3を耐熱容器に入れ、よく混ぜる。
2レンジで粘りが出るまで加熱する。
3残りのリンゴジュースをゆっくりに入れて混ぜていく。再度レンジにかけ玉が消えるまで加熱する。
4容器に移して冷蔵庫で冷却する。
5お皿に盛り付ける。