病気をするたびに強く、前向きになっていることを実感。“やらないで後悔したくない”という思いが人生を楽しいものにしてくれています。
過去に甲状腺がんを経験しているKさん。当時の治療の選択に後悔を感じたことがきっかけとなり、現在は“出合った機会には何でもチャレンジしてみる”がモットーの前向き人間に生まれ変わったといいます。
生活習慣病の一つ程度としか認識していなかったADPKD/多発性嚢胞腎
1995年、当時3歳と1歳の息子さんを持つママだったKさんは、産婦人科の定期検診で尿検査を受けました。すると、尿潜血 3+という結果に。腎臓内科を受診するよう促され、詳しい検査をしたところ、ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)であるとの診断を受けたといいます。これより以前から、Kさんのお父様がすでにADPKD/多発性嚢胞腎であることが分かっていましたが、67歳になるまで専門医にはかかっておらず、特に何かの治療をすることもなく、いたって元気に生活されていました。
「父のこともあり、診断を受ける前からADPKD/多発性嚢胞腎という疾患の名前は知っていました。ただ、認識としては生活習慣病の一つというくらい。“食事に少し気を付けようかな”という程度で、診断後も特に意識することはありませんでした」とKさんは当時を振り返ります。旦那様もADPKD/多発性嚢胞腎の存在は知っていましたが、その認識はKさんと同様だったといいます。ただし、Kさんのお母様だけは、“自分の子どもに病気を渡してしまった”と、とても気に病んでいたそうです。「子どもの立場から、私自身はそんなこと気にしていませんでしたが」。
Kさんには若い頃から甲状腺の疾患があったため、体調に異変があっても甲状腺の影響だとばかり思っていたそうです。そのため、腎臓の健康を意識することはほとんどありませんでした。ADPKD/多発性嚢胞腎と診断されてからも、対策と呼べるものは食事療法だけだったといいます。
「当時は愛知県に住んでいて、お味噌をたっぷりと使う食文化の中で生活していましたから、少し塩辛いものをセーブするようにはなりました。とはいえ、血圧にはまだ異常がなかったので、わずかに心がける程度だったかもしれません。何しろこの頃は子育てに忙しい毎日を送っていましたから、正直に言って自分の体のことを考えている余裕がなかったんですね」
ところがそれから10年後、Kさんの妹さんが透析の必要な状態となります。実は妹さんもADPKD/多発性嚢胞腎と診断されており、腎臓の状態が急速に悪化していったそうです。Kさんはこのとき初めて、「ADPKD/多発性嚢胞腎は生活習慣病とは違う病気なんだ」と実感したといいます。
この頃から、背中の痛みや重さ、圧迫感などを感じるようになったKさんですが、新しい治療を始めると症状が楽になったそうです。しかし残念ながらその治療は体質に合わず、断念せざるを得なくなりました。
「今は、血圧がやや高めに推移してきたため降圧剤を服用していることと、水分を1日2L程度は摂るようにしています。食事も以前より厳密に薄味を心がけるようになりましたね。3カ月に1回通院しながら、できる対策を、無理のない範囲でやっているところです」とKさんは現在の状況を話してくれました。
出合った機会には何でもチャレンジしてみる子どもたちにもそんな生き方をしてほしい
自身では新しい治療を続けることができませんでしたが、後悔はまったくないと言い切ります。やらないで後悔したくない、やって無駄なことは一つもないというのが、Kさんの信条です。
「実は、以前に甲状腺がんを経験しました。がんになる以前の甲状腺疾患の状態の頃、治療には薬と手術の2つの方法があると聞かされ、私は手術が何となく怖く、薬での治療を選択しました。しかし、そのしばらく後にがんが見つかって。最初から手術を選択していても結果は変わらなかったと思います。でも“あのとき手術を選択していれば”という後悔の気持ちを強く感じたのです。だからそれ以降は、出合った機会には何でもチャレンジしてみるヒトに生まれ変わりました(笑)」
Kさんの目下の心配事は、ご自身よりもお子さんのことだといいます。少し前に、大学生となった上のお子さんがADPKD/多発性嚢胞腎と診断されたためです。かつてのKさんと同様に、尿検査で再検査となり、判明しました。
「私の体験から、何がアドバイスできるかを考えています。下の子にはまだ検査をさせていないのですが、子どもに病気のことをいつどのように伝えるかなど、親の立場で抱える悩みは尽きません。そのため、遺伝カウンセリングを受けることを視野に入れていきたいと思っています」
「今になって、かつての母の思いが分かる」とKさんは言います。自分は、ADPKD/多発性嚢胞腎を親から渡され、お子さんに渡すという2つの立場を経験している。親が悪いなどと思う気持ちは皆無である一方、子どもに対しては非常に辛い気持ちだと話してくれました。
「若いうちから自分の病気を知ることは、体調をマネジメントできる習慣が身に付きやすいというメリットがあると思います。しかし、若くて、しかも男の子ですから、何も症状がない状態のうちから食事などに気を付けてくれそうにないんです。とはいえ、病気だからといってやりたいことを諦めたり、深刻になり過ぎる必要はないことは、私がよく知っています。息子たちには、そのこともしっかりと伝えたいですね」
Kさんは現在、手作りの布小物やお菓子などを販売するワンデイショップを定期開催しており、最近では注文が入ることも多くなっているそうです。お母様からの腎臓移植で元気になった妹さんと二人で、起業を視野に入れた挑戦をしているところだといいます。
「いくつも病気を経験した私ですが、そのたびに強く、前向きになっていることを実感しています。昨年末には、夫と初めての海外旅行で台湾に行ってきました。“やらないで後悔したくない”という思いが、以前より人生を楽しいものにしてくれている気がします。今後も、どんどんチャレンジして、新しい出合いを楽しみたい。そして、子どもたちにも自分の人生をより良いものにしていってほしいと願っています」
2017年1月作成
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