どのように治療するの?

どのように治療するの?

ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の進行を抑制し、合併症を治療

現在、ADPKD/多発性嚢胞腎には残念ながら根治療法がありません。そのため、ADPKD/多発性嚢胞腎の進行を抑制し、透析導入を先延ばしにする治療や合併症の治療が行われます。進行して末期腎不全に至った場合には、透析療法、腎移植などの腎代替療法が行われます。

1)進行を抑制する治療は?

降圧療法、飲水、食事管理、薬物療法などによりADPKD/多発性嚢胞腎の進行を抑制

腎機能の悪化を防ぐには血圧を低下させる降圧療法が有効です。飲水や食事管理も進行の抑制に役立ちます。近年は、進行抑制のための薬物療法も行われています。

<降圧療法>
腎臓の機能の悪化を抑制するためには血圧を適正に保つことが重要です。そのため、医師の指導による生活習慣の改善を行います。生活習慣の改善を行っても血圧が下がらない場合は、血圧を下げる降圧薬の服用が勧められます。中でもアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などのレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が第一選択として用いられます。
<飲水>
飲水は、嚢胞の増悪因子である抗利尿ホルモン・バソプレシンの分泌を抑える効果が期待できます。このため、ガイドラインでは、嚢胞形成・進展を抑制するために1日に2.5〜4Lの飲水が提案されています。バソプレシンの分泌を終日抑えるために、こまめに飲水するようにしましょう。また、むくみのある人は水を飲みすぎている可能性があるため、必ず医師に相談して自分に合った飲水量を決めましょう。
<食事管理>
食事に関しては、医師・栄養士の指導により、血圧管理や体重管理のために塩分制限、適正なカロリー摂取などを行います。なお、腎臓の状態に応じて蛋白質の摂取制限などを行うこともあるので、良質の蛋白質をとりましょう。
降圧療法・食事制限
<薬物療法>
尿を濃くし、尿量を減らす作用のある抗利尿ホルモンのバソプレシンは、ADPKD/多発性嚢胞腎の嚢胞の形成、成長を促進する増悪因子であることが知られています。近年、バソプレシンの受容体拮抗薬(バソプレシンとその受容体との結合を阻害する薬)が開発され、ADPKD/多発性嚢胞腎の進行抑制効果が期待されています。ただし、ADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんの全例に使用できるわけではなく、治療開始時には入院治療が必要となります。
降圧療法・食事制限

2)合併症の治療は?

腎臓の合併症、その他の臓器の合併症を治療

嚢胞出血
嚢胞出血は多くの場合、自然に治るか、あるいは安静によって数日で止まります。肉眼的血尿が続く場合には外科的治療が必要になることがありますので、医師に相談しましょう。
尿路結石
生活習慣の見直しや1日2Lの尿量を目安にした水分摂取などが勧められています。尿路結石予防目的としてクエン酸製剤の投与を行うこともあります。
嚢胞感染
感染を引き起こした細菌を抑えるため、抗菌薬により治療します。嚢胞感染によっては通常の抗菌薬治療で十分に効果が得られないことがあり、この場合は嚢胞内の液を排出するドレナージ術(チューブを嚢胞に留置し、嚢胞内の液を排出する)を行い、原因菌を特定して最適な抗菌薬を投与します。また、再発を繰り返す場合には腎臓を摘出する手術などを行うことがあります。
※痛みが伴う場合は、鎮痛薬を使用することもあります。
肝嚢胞
肝嚢胞が大きくなり、胃が圧迫されて食事が摂れないなどの腹部圧迫症状が強い場合には、ドレナージ術開窓術、部分切除術により肝臓の大きさを小さくして症状を軽減する外科的治療が必要になる場合があります。
脳動脈瘤くも膜下出血
脳動脈瘤は、大きさにかかわらず破裂の危険があります。脳神経外科と相談し、適切な治療を行います。

3)末期腎不全の治療は?

末期腎不全では、血液透析、腹膜透析、腎移植などが必要

ADPKD/多発性嚢胞腎では60歳までに約半数の患者さんが末期腎不全となります。末期腎不全になると、老廃物や余分な水分を排出することができなくなります。腎機能がおおむね10%以下になると、透析療法(血液透析や腹膜(ふくまく)透析)や腎移植などの腎代替(だいたい)療法が必要になります。

<血液透析>
「血液透析」は機械に血液を循環させてろ過する方法です。人工的に血液中の老廃物を除去し、血液中の電解質のバランスを維持し、余分な水分の除去を行います。
<腹膜透析>
「腹膜透析」は自分の腹膜を利用して血液をろ過する方法です。ADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんの場合、腎臓や肝臓が大きくなってお腹の中に十分なスペースを確保できないケースもありますが、腹膜透析も選択肢の1つとなります。
<腎移植>
腎臓の機能が悪くなったとき、透析療法以外の選択肢として腎移植術があります。腎臓の移植には亡くなった方から提供される献腎移植(死体腎移植)と、家族などのドナーから2つある腎臓のうち1つを譲り受ける生体腎移植があります。日本では献腎移植が非常に少なく、生体腎移植が主流となっています。ADPKD/多発性嚢胞腎の家族内のドナー(臓器提供者)を選択する場合には、ADPKD/多発性嚢胞腎が遺伝しているかどうかを確認し、慎重に選ぶ必要があります。脳動脈瘤がある場合は、腎移植前に治療しておくとよいでしょう。
血液透析・腹膜透析
血液透析・腹膜透析

4)症状緩和のための治療は?

ADPKD/多発性嚢胞腎では腎嚢胞のサイズが大きくなったり、数が増えたりすることで腎臓そのものが大きくなることから、背中を圧迫されるような痛みや腹部膨満、食欲が落ちるなどの症状が出ることがあります。通常、痛みには鎮痛剤を服用しますが、薬が効かない場合や腹部膨満などの圧迫症状を改善したい場合、血尿が続く場合などには外科的治療が行われることがあります。

外科的治療としては、嚢胞に細い針を刺して中の液体を吸引する腎嚢胞穿刺吸引療法があり、この方法では嚢胞内の液体を吸引した後、嚢胞の縮小効果を維持するためにエタノールなどの薬剤を注入することもあります。また、大きくなった嚢胞腎を縮小させる目的で、腎動脈の血流を遮断する腎動脈塞栓療法があります。腎動脈塞栓療法は基本的に、すでに透析を受けていて、尿量が1日500mL未満の方が対象となります。このような外科的治療を行っても嚢胞内に液体が溜まり嚢胞が大きくなる場合は、腎嚢胞の壁を切除する開窓術などの治療を行うこともあります。