開窓術・部分切除術

嚢胞の壁を切除して大きく窓を開け(開窓)、中に溜まっていた液体をお腹の中に流す治療法です。お腹の中に流れた嚢胞内の液体は、腹膜で自然に吸収されます。

ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の患者さんは腎臓だけでなく、肝臓にも嚢胞が多くできます。嚢胞が肝表面にある場合は、開窓術は有効な治療法となります。

過去には開腹(お腹を切って開ける)手術でしたが、近年は腹腔鏡下(お腹に数カ所の小さな傷口を開けて手術器具や内視鏡を入れて行う)手術で行われるようになってきています。
また、嚢胞を含めた肝臓の一部分を切り取る部分切除術という治療法もあります。体内に残った正常な肝臓が部分的に増大することで、肝機能が改善することもあります。

肝嚢胞

肝嚢胞

ADPKD/多発性嚢胞腎の場合、腎臓以外にも嚢胞(液体の入った「袋」状のもの)ができることがあります。腎臓に次いで嚢胞ができやすいのが肝臓です。嚢胞により肝臓の機能が悪くなることは少ないです。ただし、嚢胞の感染、出血で腹部や背部の痛みを起こしたり、肝臓が大きくなることで腹部膨満などを起こすことがあります。

大きくなった肝臓が周囲を圧迫することにより、強い腹部膨満、頻呼吸、吐き気、栄養障害など日常生活に大きな影響を及ぼす場合は、外科的治療や肝動脈塞栓療法(そくせんりょうほう)が行われることがあります。

くも膜下出血

頭の中で脳を保護する膜は、外側から順番に「硬膜(こうまく)」「くも膜」「軟膜(なんまく)」という3つの層になっています。
「くも膜下(まくか)」、すなわち、「くも膜」と脳の間には、脳に栄養を供給する血管が張り巡らされています。その血管の一部が切れて、「くも膜下」に出血がある状態です。発症すると、「今まで経験したことがない、強い頭痛」を感じます。緊急で治療をする必要があるのは言うまでもありません。直後の「再出血」、また脳血管が細くなる「攣縮(れんしゅく)」が起こると後遺症や生命のリスクが高まります。

原因のほとんどは、脳の動脈にできるコブ状の「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」の破裂によるものです。ADPKD/多発性嚢胞腎の場合、脳動脈瘤を持っている率、また、それが破裂する率が、一般の方に比べて高いことがわかっています。「脳動脈瘤」があっても、破裂を予防するための処置がとれる場合もあります。頭部MRアンジオグラフィ(MRA)などで定期的に検査することが重要です。

くも膜下出血

血清クレアチニン値

腎臓が血液を濾過して老廃物を排出する能力をチェックするための指標です。

クレアチニンは筋肉でつくられる老廃物です。血液を介して腎臓から尿に排泄されます。腎臓の機能が低下してくると、クレアチニンを体外に排出することができなくなり、クレアチニンが血液中に溜まってしまいます。そのため、血液中のクレアチニンの量から腎臓の機能を推測することができます。血清クレアチニン値が高くなるということは、腎機能が低下していることを意味します。

基準値(参考)
男性 0.6〜1.0mg/dL、女性 0.5〜0.8mg/dL
血清クレアチニン値

血清尿素窒素

血清尿素窒素は血液中の尿素に含まれる窒素の量で、血清クレアチニン値と並ぶ腎機能の指標です。尿素窒素は体の中で蛋白質がエネルギーとして使われた後にできる老廃物であり、通常はすべて糸球体でろ過されて尿中に排泄されます。腎臓の働きが低下すると尿素窒素の排泄は低下し、血中の尿素窒素の濃度は高くなります。腎機能障害のほか、脱水、蛋白質のとり過ぎ、胃や腸からの出血がある場合にも尿素窒素は増加します。正常値の目安は8〜20mg/dLです。

血尿

腎臓、膀胱、尿道に病気があると尿に血が混ざることがあります。排尿のときに自分で気がつく血尿だけでなく、出血が微量のため、肉眼では気づかないが、尿検査紙にて判明する血尿もあります。

ADPKD/多発性嚢胞腎においては、もともと血流が豊かである嚢胞の血管が切れることにより、尿に血液が入ることが原因です。頻度の高い症状です。

飲水の励行や安静により消失することが多いです。ときに腎動脈塞栓療法(じんどうみゃくそくせんりょうほう)や外科的手術などが必要になる場合があります。

血尿

高カルシウム血症

血清(血液の一成分)中のカルシウム濃度が10.6mg/dL以上の状態を高カルシウム血症といいます。高カルシウム血症になると食欲が低下し、大量の尿が出て脱水となり、腎機能が低下します。高カルシウム血症の原因としては、カルシウムやビタミンDの過剰摂取のほか、原発性副甲状腺機能亢進症という病気や悪性腫瘍があります。

高齢者は骨粗鬆症の予防・治療のためにカルシウムやビタミンDを摂取し、かつ腎機能が低下していることから、特に高カルシウム血症に注意する必要があります。

高カルシウム血症

高血圧

ADPKD/多発性嚢胞腎では、高血圧が高率で合併します。また、腎臓の機能が悪くなる前から高血圧を発症することも少なくありません。

高血圧は腎機能や心血管系合併症とも関係が深いので、しっかり血圧管理をする必要があります。通常は慢性腎臓病(CKD)の治療に準じて140/90mmHg未満にコントロールすることが目標とされています。

まずは減塩が必要です。塩分摂取量6g/日を目標としましょう。それでも目標値に達しない場合は降圧薬を飲む必要があります。

高血圧

出典:日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン2019(表2-5)より作成