3 健診結果を正しく受け止めることが治療の第一歩 吉本 貴宜 先生 3 健診結果を正しく受け止めることが治療の第一歩 吉本 貴宜 先生

予防医学の重要性に気づき、健診医に

人間ドック・健診を主体とする春日クリニック

私どもの施設は年間12万人以上の方にご利用いただいている人間ドック・健診を中心としたクリニックです。企業や個人を対象に人間ドックや定期健診、特定健診や自治体のがん検診など幅広く行っており、今年は健診事業を始めて50年目にあたり予防医学とその研究においては先駆け的な存在であると自負しています。今回の話題の中心である超音波検査室は14室あり、検査技師25名体制で健診業務を行っています。健診の結果、専門的な診断・治療が必要であれば、文京区という立地を生かして、近隣の専門性の高い病院を紹介させていただいています。

臨床での経験から健診と予防医学に着目

私が健診に興味を持つようになったきっかけは、治療医としての経験がベースにあります。もともとは消化器内科の専門医として様々な病気の診断と治療に携わっていたのですが、定期的に検査を受けてもっと早期に見つかっていれば、あるいは定期健診で見つかった時に適切な精密検査と治療を受けていれば重症化を防げたのではないかと思われる患者さんを何度もお見かけし、患者さん自身と社会全体のためにもっと健診と予防医学に注力すべきではないかと考えたのが一つの理由です。実際、健診医として働くようになり、がんを早期に発見できて受診先の病院から無事に治療を終えたというような話が届くととても嬉しく、自分が少しでもお役に立てたかなと思います。

万全の対応で受診者の方に安全と安心を

健診を受けられる方は健康であることを確かめるという目的で来られているわけですが、健診を受けて安心されるのも、逆に不安や不満をお持ちになるのも、医師をはじめとするスタッフの対応が非常に大きな要素を占めると思っています。私どものクリニックでは受診者の方にアンケートを実施しており、健診施設に求められているものを的確に提供できるよう努めています。最近は新型コロナウイルス感染症の流行があり、健診機関も三密対策で予約を取りにくくなるなどいろいろご不便をおかけしていますが、受診時刻の拡大と精緻な管理で分散を図り、ソーシャルディスタンスを確保するレイアウトの変更や、リアルタイムモニタとスタッフが連動して密になっていない検査にご案内するなど、様々な感染予防対策を徹底していますので、どうか安心して御利用いただきたいと思います。

高まるADPKD発見の意義

健診が力を発揮できるのは早期発見で適切な治療を受けられる病気

健診がより力を発揮するのは、患者さんがご自分でその深刻さを自覚しにくい病気であり、かつそれを早期発見することによって適切な治療を受けることができ、深刻な状態に陥ることを未然に防ぐことが可能な病気ではないかと思います。そこで私どもが貢献したいと考えた1つが常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)です。ADPKDは、かつて治療薬がなく、発見できても経過観察しかなかったのですが、治療薬が登場したことによって早期発見の意義が大きくなりました。

健診でのADPKD発見は腹部超音波検査で

ADPKDが健康診断で発見される検査としては、他の腎臓病と同じように血液検査の腎機能関連項目や尿検査、腹部超音波検査などが該当します。ADPKDの場合、腎機能に影響が出るのはある程度病気が進んでからのことが多いので、最も早期に発見できるのは腹部超音波検査です。ADPKDでは左右の腎臓に嚢胞と呼ばれる液体の入った袋が複数見つかりますが、腎嚢胞自体は超音波検査を受けた方で6人に1人ぐらいは指摘される決して珍しくない所見ですので、見つかれば必ずADPKDということではなく、そこから専門病院でより詳しい検査を行うことが必要になります。

ADPKDを確実に早期発見するためには

本当は腎臓に嚢胞が見つかった方全員が精密検査を受けられるとより確実に発見できるかもしれませんが、それでは精密検査を実施する専門病院と検査を受けられる多くの受診者の方にも負担を強いることになります。そこで私たちはどれくらい腎嚢胞が見つかれば検査をした方がよいかを明らかにするための研究を行い、論文として発表しました(*1)。

当クリニックで腹部超音波検査を受けた5万人弱の方を対象に、2つある腎臓の両方で腎嚢胞が各3個以上、さらに5個以上見つかった方をそれぞれADPKDの「可能性あり」、「積極的に疑う」としていずれも精密検査を受けてもらうようにお願いしました。その結果、両方の腎臓に5個以上見つかった方の約半数、5個以上なくても両側に3個以上あれば7人に1人の割合でADPKDであることが判明し、腎嚢胞が一定数以上ある患者さんは積極的に精密検査を受けた方がよいことがわかったのです。また、ADPKDの患者さんはこれまで日本では10万人あたり約25人と言われていたのですが、本研究では実際はその5倍以上いるのではないかということも明らかになり、私たち健診機関の使命は大きいと感じています。

ADPKDが疑われる場合は腎臓内科か泌尿器科に

今回は研究ということもあり、精密検査はADPKDの治療を特に専門に行っている病院への受診を勧めましたが、通常は患者さん自身で受診する病院を決められると思います。もしADPKDが疑われて検査を勧められた場合は、お近くの総合病院で腎臓内科や泌尿器科を受診されるのがよいかと思います。

自覚症状がなくても放置しないでください

ADPKDは放置すると進行する難しい病気です

ADPKDはかなり進行するまで自覚症状がないため、超音波検査で腎嚢胞を探す検査技師の役割は非常に大きいと思います。一方で、自覚症状がないゆえに、早期に精密検査をお勧めしてもついそのままにしてしまい、腎機能が悪くなってから初めて受診する方も多くいらっしゃいます。これはほかの病気でもいえることですが、自覚症状がないからといって放置せず、健診で要検査・要治療という結果が出たときにはぜひ受診していただきたいと思います。健診で検査を勧められた方全員に病気が見つかるわけではありませんが、特にADPKDは放っておくと透析が必要となる難しい病気ですので、健康寿命を長く保つためにもぜひ一度精密検査をお受けになってください。

(*1)Epidemiological Features of and Screening for Polycystic Kidney Disease in Japan. Yoshimoto T, et al. Ningen Dock International 2019; 6: 62-68.

医療法人社団同友会 春日クリニック 副院長/人間ドック・健診センター長 吉本 貴宜 先生

経歴

  • 1996年京都大学医学部卒業
  • 2007年京都大学大学院医学研究科 学位取得
  • 2007年順天堂医院総合診療科
  • 2008年医療法人社団同友会 春日クリニック入職

患者さんの健康と幸せのために
検査に取り組んでいます

赤沼 眞由美 さん 臨床検査技師

統計学の授業をきっかけに健診施設で働くことを決意

病気にかかる人が減れば、亡くなる人も減る

看護師をしていたおばに勧められたことが臨床検査技師になったきっかけです。それで専門学校へ入学し、臨床検査技師になるための勉強をしていたのですが、そのとき、「病気にかかる人が減れば、亡くなる人も減る」ということが統計学の授業で証明されているのを見て、予防医学に興味を持って、健診施設で働くことを希望するようになりました。

患者さんの言葉が検査技術向上の励みに

現在働いている春日クリニックの検査部はチームコミュニケーションを大切にしており、検査における不安や疑問について自由に意見交換できる空気のよさがあると感じています。また、春日クリニックは健診施設なので、繰り返しご利用いただく方が多いのですが、そういった受診者の方から、ここで病気を見つけてもらって治療できたといった話を聞くととても励みになります。そういう場合は、検査部全員でそのときの画像を確認し、検査技術の向上とモチベーションを上げるのに役立てています。

気持ちよく受診できるように日々取り組んでいます

春日クリニックでは、検査を始める際には、まず自分の名前を名乗るということを取り決めています。また、サービス向上委員会というものがあって、そこで言葉遣いや受診者への接し方等を学んでいます。検査技師は職務上、受診者からの質問には答えることはできませんが、受診者の立場に立って、医師にはこのように質問するとよいといったアドバイスをするようにしています。

現在は新型コロナウイルス感染症の流行もあって、検査を受けられることに不安を感じる方も多いと思いますが、春日クリニックではベッドと検査機器の間に透明シートを置き、マスクや手袋、アームカバーをつけて検査するなど、安心して検査を受けられるようにしています。また、一人の検査が終わるごとに消毒を実施しています。

ADPKDを発見する超音波検査とは?

超音波検査は音のはね返りを基にした検査

ADPKDの腎嚢胞を見つけるために行われる超音波検査は、体内に向かって人間の耳には聞こえない音を当て、はね返ってきた音を画像にして臓器の形や異常を調べるものです。ADPKDでは腎臓に嚢胞が見つかりますが、嚢胞がある部分とない部分では音のはね返り方が異なることから、嚢胞があることがわかります。ただし、きちんと発見するためには、音をまっすぐに当てる必要があるなど一定の技術が必要となりますので、正しく音を当てて、きれいな画像が撮影できるように日々研鑽を積んでいます。

腎嚢胞を発見するのは、おなかにプローブと呼ばれる器具を当てる腹部超音波検査ですが、ほかにも乳腺、甲状腺、頸動脈、前立腺、心臓など超音波検査で病気を見つけられる体の部位はたくさんあります。

検査で撮影した動画はダブルチェックや研修に活用

腹部超音波検査は通常24枚の静止画像を撮影することになっていますが、春日クリニックでは動画も撮影してダブルチェックを行っています。動画でダブルチェックすることによって、まだ経験が少ない技師の勉強にもなりますし、経験豊富な技師が確認することによって、検査結果の精度を高めて医師にもスムーズに報告することができます。

また、検査部では月に数回、テーマを決めて勉強会を行っています。若手技師にテーマに沿った発表をしてもらい、先輩がチェックするということも行っています。

将来を担う技師の育成も大切な課題ですが、私たち同友会では研修プログラムが決められており、実地の場合は受診される方の許可を得て行っています。臓器が一つ終わるごとに試験を行って必要な技術が習得されていることを確認するようにしています。

健康を前提にして検査を受けることの意味

検査を受けられる方の健康とその家族の幸せのために

健診機関に初めて来た技師によく話すのですが、病院と違って健診施設は健康だと思っている人が受診されて、場合によっては病気が見つかることがあるわけです。ADPKDなどもそうですが、まったく無症状で健康だと思っていた人の病気を発見することによって、病気が見つかった人だけではなくて、そのご家族や親戚、友人など、周りの人々も含めた人生に関わってくるので、しっかりと検査を行っていく必要があるのだということを伝えるようにしています。

超音波検査で病気が見つかったとき、それは検査を受けられた方の人生の一つの断面なのだと考えています。その断面を修復し、本来の自分に戻していくのは患者さん本人です。病気はつらいことですが、それによって数々の絆が深まり、困難を乗り越えて幸せに感じられる機会にしていくことで、たくさんのことに感謝できるようになるのだと思っています。検査を受けられる方の健康とその家族の幸せのために私たち技師はいるのだという使命感を持って、これからも検査に取り組んでいきたいと思います。

2020年10月作成
SS2010574