第21回 宮城県在住 Sさん

気に病んだところで疾患は改善されません。だったら、今まで以上に充実した人生を送れるよう努力します。ADPKDは病気だけど、私は病人ではありません。

気に病んだところで疾患は改善されません
だったら、今まで以上に充実した人生を送れるよう努力します
ADPKDは病気だけど、私は病人ではありません

単身赴任、国内外への出張など、多忙な生活を送っているSさん。無理のない節制や免疫力強化のための生活改善に取り組みつつも必要以上に自分をいたわることなく、趣味の登山にも積極的にチャレンジするなど充実した日々を過ごしています。

単身赴任、国内外への出張など、多忙な生活を送っているSさん。無理のない節制や免疫力強化のための生活改善に取り組みつつも必要以上に自分をいたわることなく、趣味の登山にも積極的にチャレンジするなど充実した日々を過ごしています。

体調は悪くないが治療法もない。その事実を受け止めるまで葛藤があった 体調は悪くないが治療法もない
その事実を受け止めるまで葛藤があった

大手電子部品メーカーに勤務するSさん。現在は自宅のある新潟県から宮城県に単身赴任し、最先端の技術開発に携わっています。Sさんが自身の多発性のう胞腎(ADPKD)を知ったのは11年前のことでした。血尿が出たため精密検査を受けたところ腎臓の肥大が認められ、ADPKDであると診断されたそうです。
「会社の健康診断は毎年受けており、血圧が140/90mmHgぐらいで高くはありましたが、45歳まで他の数値で要再検査になることもありませんでした。そのため、ADPKDと診断されて正直言って驚きました。一方で、母親が腎臓を患い40代で亡くなっており、私には姉と兄がいるのですが、当時2人とも腎臓が悪いということは耳に入っていたため、『ああ、自分もそうだったか』と、妙に納得したことを覚えています」。

ごきょうだいのうち最初にADPKDと診断されたお兄様は、病院やインターネットなどから疾患に関するさまざまな資料を収集してまとめていたそうで、理解も深く、Sさんはいろいろと教えてもらったといいます。しかし、血尿も1週間ほどで治り、医師からは半年か1年に1度通院するぐらいでよいと言われたことには戸惑いを隠せませんでした。
「当時の主治医からは、『この疾患は治療法がないが進行は非常に遅い。減塩を心掛け、腹部の打撲に注意してください』と言われたぐらいでした。確かにその通りで、ADPKDと診断されたからといって体調に変化があるわけではなく、日常生活にも何ら支障を来しませんでした。その分、気持ちの収まりどころを探すのが難しかったですね。現代は人生100年時代といわれますが、自分はそういうふうには生きられないのだなと思いました。母親が早くに亡くなっていたこともあり、私が生きられるのもせいぜい60歳ぐらいまでかなと考えてしまいました」。
自分は他の人のように長生きはできないのだ、という考えに至ったSさん。しかし、そこからは必要以上に落ち込むことをやめたといいます。「気に病んだところで疾患が改善されるわけではなく、何かの役に立つこともない。だったら、今まで以上に充実した人生を送ることができる方向に気持ちも体も持っていこう」――そう考えるようになったそうです。
「以前から少し疲れやすいなどの体調変化はありましたが、それも腎臓由来ということが分かり、いろいろなことが腑に落ちてすっきりした部分もありました。そういう意味では節制も自然にできるようになりましたね。疲労を溜めないように心掛け、睡眠不足にならないよう注意し、体を冷やさないようにしたり、お酒は飲んでも二日酔いになるほど深酒をしないようにしたりもしました。無理せずできる範囲の節制を心掛けるようになりました」。
腎臓に負担をかける感染症に注意を払い、以前は気にしたことのなかったインフルエンザの予防接種も必ず受けるようにしたそうです。免疫力強化のため、3食きちんと食事をして十分な睡眠を取り、体力アップにも心掛けました。

自分の症状とレベルを正しく把握すれば必要以上に自分をいたわらなくて済む 自分の症状とレベルを正しく把握すれば
必要以上に自分をいたわらなくて済む

現在は宮城に単身赴任中のSさんですが、週の半分は自宅のある新潟の工場に出向くことがあり、さらには東京への出張も少なくありません。忙しい毎日の中、食事バランスが乱れることはないのでしょうか。
「単身赴任中は会社の食堂で朝食と昼食を食べて、夜はなるべく自炊するようにしていますが、出張も多いため自宅で妻がつくってくれる料理のようにはいきません。しかし、減塩に関しては、ラーメンのスープを飲み干さない、しょうゆは全体にかけてしまわずに少しずつ付けるようにして食べるなど、些細な心掛けの積み重ねでできるものです」。
お兄様がまとめていた資料からADPKDの新しい治療法を知り、現在も治療を続けています。
「姉と兄は数値の悪化で新しい治療を受けることができませんでしたが、私は幸い進行が遅いタイプだったこともあり、現在も以前通り仕事を続けながら治療を継続しています。完治はしなくても、体調管理しかできることがなかった頃と比べたら、今の治療は私にとっての大きな支えであり、希望となっています」。

学生時代にワンダーフォーゲル部に所属していたSさんの趣味は山登りです。地域の登山サークルに所属する他、会社の同僚と、あるいは単独で、現在もよく登山に出掛けています。
「山登りをすると手足は多少むくみますが、体への大きな負担は感じません。山に登るのは体力的に本当に大変ですが、下山してしまえばつらい記憶から順に消えていき、残るのは雄大な景色に感動した気持ちや達成感など良い記憶ばかり。だからまた山に登りたくなるのです」。
Sさんは、これからもまだまだ山登りを続けたいそうです。そのために体力づくりをしたり、日常でも歩くよう心掛けたりして、その結果、健康にも良い効果をもたらしているそうです。
「年相応の体力の低下はありますが、今のところADPKDだからといって必要以上に自分をいたわることはないと思っています。制限し過ぎると逆に体力が弱ってしまうような気がするので、体が動く間は仕事もして、山にも登り続けたい。出張以外ではあまり海外に行ったことがないので、旅行もいいですね。やりたいことはまだまだたくさんあります。」

ADPKDと診断された患者さんへのメッセージ

ADPKDの進行が早い人と遅い人とでは一律に言えないかもしれませんが、必要以上にふさぎ込んだり、体が動くのに自分をいたわり過ぎたりすることは、心身の健康に良くないと思っています。遺伝性という特徴に思い悩む人もいるかもしれませんが、私自身は考えたところで解決策がない問題なら考えないようにしたい。それよりも、長く、ゆっくりと続くADPKDだからこそ、自分の症状とレベルを正しく把握し、それに見合った生活を考えればよい。そうすれば、思っているほど不自由なく人生を送ることができるものです。疾患があるからというだけで、やりたいことを諦める必要などないと思います。

ADPKDの進行が早い人と遅い人とでは一律に言えないかもしれませんが、必要以上にふさぎ込んだり、体が動くのに自分をいたわり過ぎたりすることは、心身の健康に良くないと思っています。遺伝性という特徴に思い悩む人もいるかもしれませんが、私自身は考えたところで解決策がない問題なら考えないようにしたい。それよりも、長く、ゆっくりと続くADPKDだからこそ、自分の症状とレベルを正しく把握し、それに見合った生活を考えればよい。そうすれば、思っているほど不自由なく人生を送ることができるものです。疾患があるからというだけで、やりたいことを諦める必要などないと思います。

2018年12月作成
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