私のADPKD診療にかける想い

09 腎臓病の患者さんに適切な医療を届けるための拠点病院としての取り組み

増加する日本における慢性腎臓病(CKD)

腎臓内科を専攻したきっかけ

医師になりたてのころ外科系と内科系とで、どちらの道に進むか悩んだことがありました。私は「病気の診断をするだけではなく、治療にも力を入れたい」という意識を強く持っていたので、腎臓内科であれば健診での早期発見から腎生検による病理診断、さらに治療まで一貫して関わることができると考えて腎臓内科の道に進みました。

糖尿病、高血圧などから進展するCKDが増えている

以来、腎臓領域の診療に携わってきましたが、かつて腎臓病は、一般の医師になじみが薄い面がありました。しかし現在に至っては「腎臓の機能を示すGFR(糸球体濾過量)の値の低下」あるいは「タンパク尿が出る」といった慢性腎臓病(CKD)の定義が定められたことで、誰もが腎臓病を診断できるようになっています。

CKDに至る原因は多岐に渡ります。中でも多いのは、糖尿病や高血圧など加齢とともに増える主として生活習慣病が原因でCKDに進展するケースです。高齢化社会を迎えたわが国では今後さらにCKD患者さんが増加してくると予想されます。
※GFR:腎臓が血液を濾過して老廃物を尿中に排泄する能力

特定検診でCKDステージを確認できる時代へ

CKDはGFRの数値によりステージG1~G5(表1)に、そしてタンパク尿の量によりA1~A3(表2)に分類されます。腎臓の働きが60%以下(G3a)、あるいはタンパク尿が出るといった異常が3ヶ月以上持続した状態をCKDと定義しています。ステージG5は末期腎不全の状態で、透析療法などの腎代替療法を検討する必要があります。

生活習慣病を予防するために40~74歳を対象に行われている特定健康診査(特定健診)では、平成30年度から医師が必要と認めた人に対しては尿検査に加えて血清クレアチニン検査ができるようになります。血清クレアチニン検査によりGFRを算出できるようになり、CKDの早期発見に結び付くと期待しています。

腎臓病の患者さんに適切な医療を届けるために

ADPKDはできるだけ早く見つけることが大切

かつてADPKDには治療法がありませんでしたが、保険適用となる治療法がある現在はADPKDを早期に発見し、適切な治療を行うことが以前よりも重要になっています。

ADPKDは遺伝性の病気ですから、ご家族にADPKDの方がいる場合は、必ず病院で検査を受けていただきたいと思います。またこの病気は、高血圧や肝のう胞、脳動脈瘤などの合併症を起こしやすいことが分かっています。合併症への適切な対応という観点からもADPKDを早期に発見して、必要な精密検査を受けることが大切です。

筑波大学附属病院におけるCKDへの取り組み

その取り組みの1つが生活習慣病(糖尿病、高血圧、動脈硬化など)の患者さんを主体として行ったFROM-J研究です。CKDにおいてかかりつけ医と腎臓専門医が連携して診療し、その上で管理栄養士が食事指導を行うことで、腎機能が改善したり、腎機能低下スピードが遅くなることが分かりました。この研究に参加してADPKDと診断がついた患者さんもおられました。

また筑波大学附属病院では、治療法がない時代から多くのADPKD患者さんの診断や高血圧などの合併症の治療を実施してきました。従来からADPKDの治療や対応に慣れている病院で積極的に治療にあたることが重要と考え、茨城県内の医療機関へ声をかけADPKD患者さんの紹介に応じております。

看護師、管理栄養士、理学療法士と連携した診療体制

当院ではCKD患者さんの診療にあたっては、通常の医師の診療だけでは十分にお伝えしきれない部分が出てくる可能性があるため、外来看護師や管理栄養士、理学療法士と一緒に診療にあたっています。看護師にサポートしてもらったり、管理栄養士に栄養指導を依頼するほか、運動により腎機能低下のスピードが遅くなるという研究結果も多いので、理学療法士に運動指導をお願いし、腎機能低下を抑制する方法などを一緒に考えるようにしています。

茨城県では、推測されるADPKDの患者さんの数と比較して、現在診療を受けている患者さんの数が明らかに少ない状況です。県内にも適切な診療を受けていない患者さんがまだまだ多くいらっしゃると考えています。こうした患者さんを見落とさないためにも、地域で適切な医療を提供できるよう、さまざまな取り組みを進めています。

治療はメリットをしっかり認識しながら継続しましょう

ご自身の腎臓の状態を知ることが大切

日本腎臓学会が一般の方に向けて発表した新規の透析導入患者を減らすための提言では、「すべての成人は1年に1回、尿検査と血清クレアチニン検査を受けて、ご自身の腎臓の状態を知ってください」と訴えかけています。この検査でご自身の腎臓の状態を把握し、前年よりも悪化していた場合は医師に相談する、といった積極的な姿勢を持つことが大切になります。

ADPKD患者さんも同様です。CKDの診療指針となる「CKD診療ガイド」では、腎機能の低下が明らかな場合は腎機能の経過観察を行うことが重要であるとしています。ご自身の腎臓の状態を知ることは治療方針や経過を知るうえでも必要です。

治療のメリットの認識を

ADPKDの治療では、腎臓が増大する速度を遅らせる、腎機能が低下する速度を遅らせる、合併症を起こさない、が治療の目標になります。

最近では、ADPKDの薬物治療の新たなデータが報告され、治療のメリットを示す根拠が積みあがっています。治療が少しつらい部分はあるかもしれませんが、治療は主体となる患者さんのご理解と意欲があってこそ成立するものです。治療のメリットをしっかり認識していただきたいと思います。

ADPKDに対する治療法がなかった時代から新たな治療法が登場して時代が変化しました。例えばご家族の方が透析になっていたとしても、あなたはこれから治療を行うことで透析を回避できる可能性があります、と言えるようになったのです。だからこそ、できるだけ早くADPKDを見つけて適切な治療を受けていただきたいと切に願っています。

ADPKDへの理解は患者さんご自身とともにご家族も

新たな治療法の登場を契機に県内の拠点病院として展開

私が医師となって3年目に腎臓内科を目指すようになり、そのときから本格的にADPKDを含めた腎臓病の患者さんを診療させていただくようになりました。その後、ADPKDに新たな治療法が登場したこともあり、茨城県内の腎臓内科拠点病院としてADPKD診療をしっかり行っていこうと決意を新たにしました。現在もその意識を継続して日々診療を行っています。

当科の診療は山縣先生の強いリーダーシップと指導のもと、患者さんの診察、治療、研究、教育など腎臓領域において高い医療水準を志し、レベルの高い腎臓内科医を目指すことができる環境が整っていると感じています。

患者さんのご家族にも適切な医療を受けていただくために

ADPKDは、遺伝性疾患ということがあり、ほとんどの方に家族歴があります。そこで、まず患者さんにお聞きすることは、患者さんとともにご家族がこの病気について理解されているかということです。加えてご家族の中に検査を受けていない人がいないかも確認しています。ADPKDの病気の説明の際には病気についてよくわかるパンフレットをお渡しし、次の診察時に再度確認するようにしています。

ADPKDという病気を患者さんご自身に理解いただくことはもちろん重要なことですが、ご家族にもその知識をしっかり共有いただきたいと思っています。ADPKDが原因で透析や移植が必要となる残念なケースも多いのですが、その方のお子さんが現在どのような状態にあるか、さらにはお子さんにもADPKDという病気を理解いただいた上で、適切な医療を受けていただきたいと思っています。

私は腎臓内科医として腎臓の状態が悪くならないようにという思いで日々診療を行っていますが、高血圧や脳動脈瘤といった合併症のコントロールや対策にも力を入れています。

検査値や画像を用いた説明で治療に対する意識が向上

実際の診療では患者さんの悩みや心配事をしっかり聞くように心がけています。疑問や不安を抱える患者さんには、現在腎機能の悪化や腎容積(大きさ)の増大を抑制する治療法があることや血圧コントロールなどをしっかり行うことで腎機能の悪化を遅らせる可能性があることなどをお伝えし、前向きにADPKDと向き合っていただけるように心がけています。

また、患者さんの現在の腎臓の状態がどの程度であるかをきちんとわかりやすく説明することも重要だと思います。腎臓の変化をお伝えする際には検査値や腎臓の画像をご覧いただきながら説明しています。実際にご自身の腎臓の画像などを見ることで治療に対する意識が高まるとともに、病気に対する理解も深まるように感じています。

多岐にわたる医療連携体制を構築

地域のかかりつけ医やコメディカルスタッフとの連携

ADPKDの診療では、かかりつけ医と腎臓専門医の連携も重要ですが、管理栄養士、看護師、薬剤師、理学療法士との連携もとても大切です。私たちが中心となって進めたFROM-J研究では、かかりつけ医と腎臓専門医が連携して慢性腎臓病(CKD)の診療にあたり、その上で管理栄養士による生活・食事指導を行いました。拠点病院からかかりつけ医のもとに管理栄養士を派遣する形で患者さんに生活・食事指導を実施しましたが、この研究以降も管理栄養士とは頻繁かつ良好なコミュニケーションがとれています。

また、FROM-J研究には茨城県の4つの医師会に参加していただきましたが、定期的に、かかりつけ医、腎臓専門医、コメディカルが参加する形で講演会や勉強会を開催させていただいております。このような機会にADPKDの診療や治療に触れさせていただくこともあり、かかりつけ医の先生方にも、透析患者さんや家族歴などにも留意してADPKDに関するご理解を深めていただくきっかけになっていただけたらと感じています。

他科との連携

若い方では、血尿が出たことで泌尿器科を受診し、検査によりADPKDと診断され紹介されてくるケースがあります。また、整形外科で腰の骨の画像検査を行った際に、多発腎のう胞や腎臓の腫れが認められ、紹介されることもあります。脳外科からの紹介も多く、脳動脈瘤の患者さんを検査したらADPKDであったというケースです。

こうしたことからも県内にはADPKD患者さんがまだまだ存在していると感じています。しかし患者さんのご家族に検査を勧めても、さまざまな事情で検査に至らないケースもあります。このような潜在的なADPKD患者さんをどのように治療まで結びつけるかがこれからの課題だと感じています。

ADPKDは単に診断することだけではなく、積極的な治療が行える時代になってきました。ADPKDと診断されていない潜在患者さんの中には、年齢が若くても高血圧や脳動脈瘤などを合併されている方もいらっしゃると思います。こうした方は、合併症も考慮して必要な検査を受け、コントロール可能なものはしっかりと対応していくことが重要だと思います。そのためにも患者さんはもちろん、ご家族の方もADPKDについて十分理解していただくことが大切です。

筑波大学医学医療系 腎臓内科教授 山縣 邦弘先生

経歴

  • 1984年筑波大学医学専門学群
    卒業、同附属病院
    内科医員
  • 1990年株式会社日立製作所
    日立総合病院腎臓内科
    主任医長
  • 1999年筑波大学臨床医学系内科 講師
  • 2001年筑波大学臨床医学系内科 助教授
  • 2001年米国オレゴン大学分子生物学研究所
    Research Associate
  • 2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科臨床医学系
    腎臓内科 助教授
  • 2006年筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻腎臓病態医学分野
    教授
  • 2014年筑波大学医学医療系
    臨床医学域長 併任
  • 2016年筑波大学医学医療系
    臨床医学域 副病院長
筑波大学医学医療系 腎臓内科講師 甲斐 平康先生

経歴

  • 1996年筑波大学医学専門学群
    卒業、同附属病院
    内科医員
  • 2002年筑波学園病院
  • 2003年筑波大学大学院人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻
  • 2007年筑波大学大学院人間総合科学研究科 研究員
  • 2008年筑波大学大学院人間総合科学研究科 講師
  • 2011年筑波大学医学医療系
    腎臓内科 講師

慢性腎臓病(CKD)患者さんに対する
食事指導の工夫

岩部博子 先生 筑波大学附属病院 病態栄養部副部長

腎臓内科チームとして取り組む栄養指導

私の所属する病態栄養部では外来の患者さん、入院の患者さんに対して、個人栄養指導を行っています。市民公開講座のようなイベントや院内で行っている腎臓教室の時には、腎臓内科の山縣先生や甲斐先生、看護師さん、薬剤師さん、理学療法士さんと協力してチームとして取り組みます。患者さんに対する想いはどの医療スタッフも同じであることを実感しています。

山縣先生は当院の副院長でもあり、強力なリーダーシップで腎臓内科をけん引されています。また、慢性腎臓病(CKD)において栄養指導を大事にされており、先生方がお話しされたFROM-J研究を全国的に推進されました。FROM-J研究には、私も当初から参加させていただきました。そんな山縣先生のいらっしゃる筑波大学附属病院で管理栄養士として従事していますので日々の勉強は不可欠です。

「腎臓を守る」という視点で食事療法を捉えていただく

「食事療法」という言葉がありますが、実際にはCKD患者さんの腎臓の機能が食事によってすぐに良くなるわけではありません。そのため、栄養指導では、最適な食事をとることによって「腎臓を守る」という観点からお話をしています。腎臓を守るためには、まず血圧を低く保つことが重要で、よく知られている減塩に向けた話を中心にします。この際、とかく食事療法は「食事を制限される」といったネガティブなイメージを持たれることが多いのですが、食事によって腎臓を守るというポジティブな視点で話をするようにしています。

食生活を振り返り、意識的に改善していく

また、食事は薬のように医師の処方によって決められた回数で服薬するものではなく、生活の一部であるため、食事療法をあまり厳格に捉えすぎないようにと伝えています。家族は同じ食事をとるため、これまでに培われてきた食の背景はみな同じであり、家族全体の生活の一部として食習慣があるわけです。減塩一つをとっても家庭ごとに食事の食塩量は異なりますから、食事療法を実施する際には「塩分はすべて制限」といったことではなく、日々のご家庭での食生活を振り返り、そこから意識的に減塩できる要素を考えていくことが必要です。

食事療法を「料理」として捉える

CKDの食事療法では減塩が第一となりますが、タンパク質やカリウム、リン、プリン体などの摂取にも気を付ける必要があります。このようなことをお話しすると「では、いったい何を食べたら良いいのですか?」と戸惑う患者さんもいらっしゃいます。しかし食べるときをよく考えてみてください。私たちは肉や野菜などをそのまま食べるわけではなく、その都度調理をして食べています。このことから栄養指導では栄養素としてではなく、料理として捉えていただくようにしています。1例として、野菜を煮込んだスープはカリウムなどの栄養素がスープの中に溶け出してきます。溶け出したエキスはある人にとっては体に良いものですが、病気によっては体に悪いものになります。このように食事療法を料理として捉えると、何を食べたら良く、何を食べたらいけないのかということが理解していただきやすくなります。栄養素で捉えると外食時にも困ります。料理であれば野菜を煮込んだシチューより、炒め物の方が良いだろうと感覚的に捉えていただけるようになります。

私自身、食材や栄養素において良し悪しを付けたくないという考えがあり、料理として食品の質を説明するようにしています。

なぜ食べ物の制限が必要かをメカニズムから考える

CKDは進行するにしたがって、食べ物の制限が増えてきます。患者さんにしてみれば「こんなに頑張っているのになぜ制限が増えるのか」と疑問を持たれることは無理もないことでしょう。その説明の際には、腎臓のイラストを用います。食べた物は胃腸で分解され、血液に乗って体中をめぐることや、食べた物がどのように分解され吸収されていくか、といったメカニズムをわかりやすく説明しています。この説明の中で腎臓に負担かかる理由や、なぜ食べ物の制限が必要なのかということを理解していただくようにしています。

看護師との密な連携により患者さんの悩みや疑問に適切に対応

外来では、患者さんに寄り添っている看護師とのコミュニケーションを密にとっています。栄養指導前には看護師に患者さんの様子などを聞き、指導後は指導内容や様子について看護師に伝えています。看護師と情報を共有することで、患者さんの悩みや疑問などに適切に答えることができるようになります。患者さんとの信頼関係を築く上でも重要なことだと感じています。

2017年12月作成
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