進歩するADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の診療
合併症予防と心のケアが中心だったADPKD/多発性嚢胞腎の診療
ADPKD/多発性嚢胞腎の予後予測と腎機能の温存が可能な時代に
近年、このような状況が大きく変わってきています。これまでADPKD/多発性嚢胞腎が進行したときの予後は、ほとんどが透析治療の適応になると考えられていました。一部、透析に至らないケースがあるものの、その予後予測において明確な指標はありませんでした。しかし最近の研究で、腎臓の大きさがある一定のサイズを超えると、将来的に、透析治療が必要な状態まで腎不全が進む可能性が高いことがわかってきました。つまり腎臓の大きさと予後において相関が示されたわけです。これにより、本当に治療を必要としている人と経過観察で良い人との鑑別が明確となり、適切な診療方針を立てることができるようになっています。そしてもっとも大きいこととしては、腎臓の“嚢胞”に対するアプローチができるようになったことです。これは患者さんにとってはもちろんのこと、これまで有効な手立てがなかった医療者にとっても大変喜ばしいことです。
クリニックにおけるADPKD/多発性嚢胞腎の診療の実際
診断がつくケースが増加している
当クリニックでは、腎臓病、糖尿病、高血圧の患者さんが腎不全にならないように最善の治療を提供することを診療の基本方針に掲げています。ADPKD/多発性嚢胞腎は腎臓の病気として診ますが、患者さんの来院のきっかけとしては健康診断や人間ドックで異常が見つかって来られる方が多い印象です。また、他のクリニックから移って来られた患者さんに、当クリニックで初めてADPKD/多発性嚢胞腎の診断をつけることもあります。
近年、ADPKD/多発性嚢胞腎に関しての研究が盛んに行われており、医師の間でもこの病気に対する認知度が高まっているようです。以前に比べ、全国的に見つかるケースが増えている印象がありますが、ADPKD/多発性嚢胞腎について多くの医師が意識を持つようになったことが、その背景の一つにあると思います。
長期にわたる治療の中で、できることはすべて行う
患者さんはこの病気とのつきあいが長期にわたることになりますが、その中で医師は患者さんに寄り添いながらADPKD/多発性嚢胞腎に起こり得る合併症への対応を含め、できることをすべて行うことが大切だと私は考えています。
当クリニックでは腎臓の病気だけではなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症など内科全般を診ていますので、合併する生活習慣病の予防や治療も積極的に行っています。例えばADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんには多くの方に高血圧がみられますが、稀に脂肪肝などがみられることもあります。そのような方に対しては食事を中心とした生活習慣の改善を行っています。
また、ADPKD/多発性嚢胞腎は国が指定している指定難病ですから、条件に合致する患者さんにはきちんと申請していただいて、治療にかかる経済的な負担が少なく済むようにサポートしています。
患者さんの利便性に貢献する診療スタイル
ADPKD/多発性嚢胞腎は大きな病院に通院されている方も多くいらっしゃいます。ただ、この病気は慢性的であり診療が長期にわたることを考えると、できるだけご自宅の近くで、しかも、平日の夕方や土曜日にも診療が可能な利便性を有するクリニックが果たす役割は大きいと考えています。薬をいつでも出してもらえる、ご自宅からアクセスが良いということが時間的なメリットだと思いますが、当クリニックでは単身赴任で県外に行かれている会社員の患者さんが、こちらに帰って来られた週末(土曜日)に月1回来院されているケースもあります。クリニックでは患者さんのライフスタイルに合わせた診療を提供することが可能だと考えています。


ご家族であってもADPKD/多発性嚢胞腎の進行度合いはそれぞれ
ご自身の状態を知り、最善の対応をしていきましょう
クリニックには、かかりつけ医としてご家族みなさんを診ることができるというメリットがあります。ADPKD/多発性嚢胞腎は遺伝性の病気ですから、診断がついた段階で、あるいはADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんが初めて来院された段階で、ご本人とともにご家族にもこの病気について知っていただくために疾患啓発パンフレットをお渡ししています。ご家族であっても病気の進行度合いは人それぞれのケースがありますから、念のため遺伝の可能性のある方には一度受診いただくことが望ましいと思っています。ADPKD/多発性嚢胞腎が原因で透析治療を受けておられる方に娘さんがいらっしゃると聞いて、ADPKD/多発性嚢胞腎であるかを確認させていただいたこともありました。そこでたとえ病気がわかったとして、現状で医療介入は必要ないかもしれませんが、早いうちから経過をみておくことに越したことはありません。現時点では治療の必要はないというご家族の方にも、高血圧や脳動脈瘤などの合併症のチェックは定期的にしておいた方が良いことをお伝えしています。
ADPKD/多発性嚢胞腎は進行していく可能性がある病気ですから、やはりその病気に対してできることはすべて行う必要があると考えています。そのためにはまず、患者さんご自身に正しい情報を知ってもらう必要があります。腎臓のサイズは病気の進行程度を判断するうえで重要です。例えば、現時点である程度の腎臓のサイズに至っていたとしても、場合によっては将来的に透析治療に至らない可能性が高いということがわかるケースもあります。そのようなことがわかるだけでも、患者さんは安心できると思います。病気の状態によって適切な対応ができる時代となっていますので、患者さんにはご自身の病気の状態がどのような段階にあるのか、そしてその後どのように進行していき、それに対してどのような対処法があるのかを知っていただくことが大切です。患者さんと話し合いながら、最善かつ最新の診療をご提供したいというのが私のモットーです。


経歴
- 1980年鹿児島大学医学部卒業
大阪大学第一内科入局 - 1983年大阪大学医学部附属病院医員
- 1987年Vanderbilt大学留学
- 1995年大阪大学第一内科助手
腎臓研究室主任 - 2001年大阪大学第一内科 講師
大阪大学医学部附属病院
腎臓内科 科長 血液浄化部
副部長併任 - 2004年大阪大学大学院医学系研究科
病態情報内科学(第一内科)
助教授 - 2005年大阪大学大学院医学系研究科
老年・腎臓内科学 助教授
大阪大学医学部附属病院
血液浄化部 部長併任
大阪大学医学部附属病院
腎臓内科 病院教授 - 2009年名古屋大学大学院医学系
研究科病態内科講座
腎臓内科学 特任准教授 - 2011年名古屋大学大学院医学系
研究科病態内科講座
腎臓内科学 特任准教授 - 2012年中山寺いまいクリニック開業
- 2014年藤田保健衛生大学医学部
腎内科学 客員教授
2017年8月作成
SS1708397
以前はADPKD/多発性嚢胞腎に対する直接的な治療法がなく、残念ながら多くの患者さんが病状の進行のままに腎不全から透析治療という経過をたどられました。また、この病気は遺伝性ということで、ご家族にも見つかる可能性があることから、お子さんの結婚などを考えて、できればADPKD/多発性嚢胞腎であることを隠しておきたいという患者さんもいらっしゃいました。医療者としては高血圧や脳動脈瘤などの合併症の予防に努めながら、そして心のケアをしながら、透析治療を開始するまでを見守るしか手立てがありませんでした。