12 ご家族のことも考えたADPKD診療を目指して

体全体を診る腎臓内科

腎臓内科を選んだきっかけ

猪阪先生

私が腎臓内科を選んだのは、腎臓を通して全身を診ることができることに興味を持ったからです。腎臓内科はスペシャリストであると同時にゼネラリストでもあります。特に尿の所見や全身所見などからきちんと診断していけることが面白いと思いました。

辻本先生

私は内科に進もうと決めていたのですが、そこから何を診るのかということは決めきれていませんでした。内科に入局して2年目に腎臓、透析を専門としている井上病院で研修することになり、透析に興味を持ったのがきっかけです。実際に診療すると、自分が望んでいた全身を診るというのに合っていて、よかったと思っています。

藤原先生

私も内科という希望があったのですが、そこから先は決めていませんでした。研修中に、救急で低ナトリウム血症の患者さんを診る機会があり、補正でみるみる元気になるのを見て、腎臓に興味を持ち始めたのがきっかけです。

ADPKDは治療可能な病気になりつつあります

猪阪先生

大阪大学では50名くらいADPKDの患者さんを診ています。以前は合併症の管理などをしながら、腎臓の機能が徐々に悪くなっていくのを見守っていくような感じだったのですが、現在は治療法もあり、治療しがいのある病気だと感じています。現在は新しい治療法が保険適応になり、ADPKDも指定難病になったことから、市民公開講座や勉強会といった活動を行って、患者さんをご紹介いただくことも増えたように思います。


辻本先生

井上病院には800人くらいの患者さんが透析で通院されています。嚢胞腎から透析導入されている患者さんが40人くらいで、ADPKDで通院されている患者さんは7〜8名でしょうか。猪阪先生のところで診ていただいている、または猪阪先生と一緒に診ている患者さんもいます。以前はADPKDと診断されても、腎機能の確認と血圧管理くらいしかすることがなかったため、診療していて申し訳ない気持ちになっていましたが、今は治療法があるため、積極的に発見して治療していきたい病気に変わってきたと思います。

藤原先生

今、診ている40代のADPKDの患者さんは、お母さんもADPKDでしたので、治療法があるならばと、治療に対してとても積極的です。お子さんがいらっしゃるのですが、お子さんに病気のことをどのように伝えるかといったことも考えておられます。私はADPKDの診療に関しては初心者ですが、一緒にスタートを切っていければと思い、診療させてもらっています。

ご家族が透析にならないように考えています

ご家族を対象とした勉強会の実施

猪阪先生

辻本先生がお話しされたように、井上病院には、ADPKDで透析を受けられている患者さんがたくさんいらっしゃいますので、その方たちを対象に病気の説明や治療法、病気の遺伝について、といった勉強会を実施しました。私の印象ですが、ADPKDの患者さんはいい人が多くて、自分は透析になってしまったけれども、家族はなんとか透析導入を遅らせることはできないだろうかと考えて、勉強会に参加されています。そこで患者さんご自身が自分の病気について勉強すると同時に、ご家族へ検査受診を勧めるなど、啓発につながっています。実際に検査を受けて発見され、治療を開始している方もおられ、啓発することの重要性を感じています。

患者さんのご家族の中には、例えば、お父さんがADPKDの治療を受けているにもかかわらず、病気に対して関心がない方もいらっしゃいます。そのような方に、ADPKDのことをきちんと知ってもらうことで、積極的に検査、治療に参加していただけるのではないかと思っています。

一般の方を対象にしたADPKDの講演会も行っていますが、ADPKDで透析を受けられている患者さんやご家族を対象にすることで、ADPKDのリスクがある方を啓発できています。ADPKDの患者さんは4,000人に1人くらいしかいないのですが、透析を受けている患者さんの中には、ADPKDの患者さんがけっこういらっしゃいますので、その患者さんのご家族の早期発見、早期治療に結びつきやすいと感じています。

辻本先生

ADPKDは家族内で発見されるケースが多いのです。当院の健診センターで嚢胞が発見された方は、お母さんがADPKDだったらしく、「おそらくADPKDだと思います」とおっしゃって、当院の外来を受診されました。他にも当院以外の健診で嚢胞が見つかり、ADPKDであろうと考えて受診された方が何人かいらっしゃいます。


猪阪先生

勉強会では、ADPKD一般のことを説明しています。スライドを見せながら、ADPKDの症状や、脱水にならないように水分を摂取する、禁煙といった日常生活の注意点、検査方法、治療法、遺伝のことなどを説明しています。ADPKDと診断した時もお話しするのですが、外来では十分に説明できないこともありますので、勉強会に来ていただいて、ゆっくり聞いていただいて、質問も受けるようにしています。

他の病院で勉強会を行っているのは、患者さんが多い井上病院だけですが、透析を行っている病院などに勉強会の案内状をお送りして、阪大病院の勉強会に患者さんに来ていただくようにしています。案内状をお送りした病院の先生自身が参加されることもあります。そのような時には患者さんにも先生にも同じ内容を聞いていただいています。

阪大病院で実施している勉強会は1回あたり10人くらいの参加があります。月に1回くらい開催していた時もありましたので、それなりの人数の方が勉強会に参加していました。

お子さんに話をする時は考えて

猪阪先生

患者さんのお子さんに説明するのは、非常に難しいと感じています。お子さんがいらっしゃる患者さんに対して、2分の1の確率で遺伝することをお伝えしています。急に医師からお子さんに直接説明すると、お子さんがショックを受けられることもありますので、とりあえず超音波検査などの侵襲性の少ない検査だけを受けていただくのがよいと思います。疑いがあるようであれば、進行予防のための生活指導も必要となってきます。お子さんがいらっしゃる患者さんには「ある程度病気を受け止めることができる高校生くらいの時期を目途に、まずは検査を受けていただくのがよいのではないか」とお話ししています。

ADPKDであるかどうか不明のまま、例えば予防のために子どもに水をたくさん飲ませるなどの生活の制限を強いることはあまり好ましくありません。まず検査を受けていただいて、ADPKDの可能性が高いかどうか、確認するのがよいと考えています。

藤原先生

私が診ている患者さんで、健診で嚢胞が発見された方がいらっしゃったのですが、その方はなかなか自分の病気を受け入れられなかったみたいです。ご家族に透析されている方がいらっしゃったらしいのですが、聞いてなかったということで、「腎臓が悪いなんて認めない」と非常に怒っていらっしゃいました。そのほかにも家族にADPKDの患者さんがいらっしゃらなかった方や、ご家族にいらしても、進行がゆっくりだったために、透析されておらず、「どうして自分は透析が必要になるのか」と透析導入をなかなか受け入れられなかった方もいます。受け入れられない患者さんは、いずれもご家族から病気のことをきちんと聞いていなかったか、あるいは家族歴がない方が多いようです。

自分の子どもにいつ話そうかという話は、よく聞かれるのですが、なかなか答えが見つかりませんでした。今の猪阪先生のお話を聞いて、病気のことを知らせる前に、高校生くらいから検査を受けてもらうというのは一つの方法なのかと思いました。

病気を知っていらっしゃると、子どもを作らない選択肢をされる方もいると思うので、ある程度、社会的背景が整って、結婚もされて子どもが生まれた時くらいにじっくり話された方がよいのかなと思っていましたが、予防的な意味では早いほうがよいかと思います。

一緒に前向きに頑張っていきましょう

遺伝性疾患だからといって責任を感じることはありません

猪阪先生

ADPKDの治療は進行を遅らせる治療法ですが、今後、研究が進んでいけば、働いている間は透析をしなくてすむ、死ぬまで透析をしなくてすむようになるのではないかと思っています。私たちはそのような治療に取り組み、また、患者さんにお知らせしていくことが大切なのではないかと考えます。

ADPKDは遺伝性疾患ですが、進行のスピードは人によってさまざまです。自分のお子さんの進行がものすごく早かったりすると、責任を感じられる方がいらっしゃいますが、必ずしもそうではありません。遺伝性疾患であることは理解していただく必要がありますが、病気に対して前向きでいてほしいと思います。

一緒に治療していきたいと思っています

辻本先生

ADPKDは遺伝する病気なので、患者さんはどうしようもないと感じているのではないかと思います。遺伝性ではない他の病気と違って、自分はADPKDになる運命だと考えてしまい、孤独感を感じているのではないでしょうか。患者さんに寄り添って、一緒に治療していくという気持ちで、治療に臨んでいきたいと思っています。

藤原先生

私は他のお二人の先生と比べて、経験は少ないですが、できることを全部調べ、できることを全部提案して、患者さんと一緒に歩んでいければと思っています。

大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授 猪阪 善隆 先生

経歴

  • 1988年大阪大学医学部卒業
  • 1990年大阪大学大学院医学研究科博士課程入学
  • 1994年米国ユタ大学医学部腎臓・高血圧教室リサーチフェロー
  • 1995年大阪大学医学部研究生(内科学第一教室)
  • 2004年大阪大学大学院病態情報内科学 助手
  • 2005年大阪大学大学院先端移植基盤医療学 准教授
  • 2009年大阪大学大学院老年・腎臓内科学 准教授
    大阪大学医学部附属病院 腎臓内科科長・血液浄化部部長
  • 2010年大阪大学附属病院 病院教授
  • 2015年大阪大学大学院 腎臓内科学 教授
社会医療法⼈愛仁会 井上病院 院長
辻本 吉広 先生

経歴

  • 1995年大阪市立大学医学部卒業、大阪市立大学医学部第二内科入局
  • 1996年蒼龍会 井上病院勤務
  • 2010年同 副院長
  • 2015年同 院長
  • 2019年4月社会医療法人愛仁会 井上病院 院長
社会医療法⼈愛仁会 井上病院 腎臓内科部長 藤原 木綿子 先生

経歴

  • 2003年大分大学医学部卒業、大分大学第1内科入局
  • 2005年同 第1内科腎臓内科入局
    大分大学附属病院、九州医療センター、国東市民病院、別府医療センター勤務
  • 2007年蒼龍会 井上病院就職
  • 2010年同 医長補佐
  • 2016年同 医長
  • 2019年4月社会医療法人愛仁会 井上病院 腎臓内科部長

2019年4月作成
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