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私のADPKD診療にかける想い

05 専門外来を創設しADPKDに悩む患者さんを適切に診療

県内唯一の嚢胞腎専門外来を創設、
遺伝性疾患特有の相談にも対応

“病気のなりやすさ”に着目して腎臓の病気を研究

私は腎臓内科医を志すのはとても遅かったのです。総合内科で5年くらい研修したころ、ようやく専門家として“腎臓学を究めたい”という意識が強くなりました。以来、腎臓について研鑽を積んできましたが、腎臓病の患者さんは、総合的な内科のアプローチが必要なことが多いので、5年間の総合内科研修は現在の私にとても活きています。

腎臓専門医を志したころ、ヒト遺伝子解析研究が勃興してきました。ヒトの遺伝子がすべて解明されたら病気の成り立ちも明らかになると期待されていました。高血圧になりやすい、うつ病になりやすい、といった“病気のなりやすさ”についても遺伝子解析への期待は大きいものがありました。私も当時からそうした視点で腎臓の病気を研究するようになり、必然的に遺伝性腎疾患であるADPKDやアルポート症候群について深く関わるようになりました。

嚢胞腎外来創設の意義

2014年に新たな治療薬が承認されたことも専門外来創設の大きな理由の一つです。ADPKD診療の流れが新薬の登場で大きく変わり、今後、治療に対する医療ニーズが増大することが予測されました。そのとき、嚢胞腎外来という看板があったほうが患者さんも迷わず来ていただけるだろうと考えました。

若い頃は、ADPKD患者さんの担当になると遺伝的な疾患だから、どのように対応したら良いのだろうか、そんな意識が先行していました。妙に身構えて“固い診療”をしていた気がします。しかし、多くの患者さんたちと接しているうちに、患者さんにとって遺伝する病気であることは大変なことであるけれど、私たちができることは、本当に重要なことは「気持ちを分かち合い、治療や養生をサポートすること」であることに気づきました。

専門外来でしかできない相談や医療ニーズがある、こう考えたことが嚢胞腎外来創設の背景にあります。私は三重県に移って15年が経ちますが、その間、ずっと診ているADPKD患者さんもいらっしゃいます。そういう方々も通常の腎臓外来から嚢胞腎外来にいらっしゃるようになり、話す内容が変わってきました。例えばご家族のことです。十何年もの間、全く触れられることはなかったのですが、嚢胞腎外来では「実は子供のことを心配してるんです」といった相談をいただくようになりました。また、今まで腎臓外来に訪れることがなかった方も来院されるようになりました。やはり開設して良かったと思っています。

脳神経外科との密接な連携

ADPKDの臓器障害は腎不全が主ですが、高血圧や脳動脈瘤、肝のう胞などを合併することがあります。特に脳動脈瘤は破裂すると、くも膜下出血を起こし生命にかかわることがあります。そのため破裂予防を目的としたスクリーニング検査は必須です。私たちは脳動脈瘤診療を積極的に展開している当院脳神経外科と密接に連携をとり、こうした合併症に対応する体制を整えています。

現在、この嚢胞腎外来は三重県内で唯一の専門外来となっています。2014年1月に開設し、同年3月末にはADPKDに対する新薬が認可されたこともあり、県内はもとより東海・関西圏から多くの患者さんが受診されています。ADPKDに悩む患者さんの診療を適切に行っていきたいと思っています。

腎臓に関する様々な啓発活動を展開
腎臓病における運動の効用についても提言

治療は生活や社会活動との両立があってこそ成り立つ

新しい治療を想定しての話ですが、やはりどんな治療でも生活や社会活動との両立があってはじめて成り立つと考えています。ですから焦らず無理のない範囲で治療に臨んでいただくことが大切です。継続的な治療のために、ご本人にじっくり考えていただき、そしてご家族の理解を得ながら進めていけるようにサポートしています。また、幸いなことにADPKDは難病医療助成制度の対象疾患となっています。この制度を利用し医療費助成を受けながら、治療や養生に専念されている患者さんも多くいらっしゃいます。

腎臓の“守り方・労り方”の啓発

医師・看護師・栄養士・薬剤師・検査技師・放射線科・臨床工学技士・ソーシャルワーカー・リハビリ療法士・運動指導士のスペシャリストがチームとなり、さまざまな視点から患者さんをサポートしています。それぞれの立場から腎臓に関するテーマを決めて定期的に「腎臓病教室」を開催しています。腎臓の“守り方・労り方”をテーマにした冊子の刊行のほか、腎臓月間には院内に展示スペースを設けて腎臓に関する特別展示も行っています。

とかく腎臓は他の臓器とは異なり “労わる”という概念が希薄になりがちです。どれくらい大事にしないといけないか知らないから、腎臓に負担をかけてしまう。ですから、患者さんが意識して腎臓を守っていく習慣を身につけてもらいたいのです。ADPKD患者さんに限らず、慢性腎臓病(CKD)を患っている方々に、啓発活動を通じて腎臓のことをよく知ってもらいたい。そして腎臓を労わる気持ちを育んでいただきたいと思っています。

鈴鹿回生病院 腎臓病教室委員会 発行 「腎臓の守り方 ・ 労り方 2016年版」

運動は腎臓病に良い効果をもたらす

当院は伝統的に熱心なリハビリテーション医療とスポーツ医学を行ってきましたが、腎臓医にとって心強いのは、健康運動指導士による運動サポートです。有資格者のもとで行う運動は、腎臓病や透析患者さんに良い効果をもたらしてくれます。現在、CKD診療では積極的に運動を取り入れられるようになりました。ADPKD患者さんは、のう胞の影響で、おなかが大きくなったり、重くなったりして運動不足になりがちです。また腰痛持ちの方も多い印象があります。運動は、筋肉強化による腰痛の緩和に加え、血圧の是正や骨などにも良い影響が期待できます。

腎臓を鍛えることはできませんが、身体を鍛えて腎臓をサポートすることは可能です。ADPKD患者さんには、透析療法の有無に関わらず、運動で体を鍛えていただきたいと考えています。

毎日の積み重ねが大切であることを前向きにとらえていただきたい

現在のADPKDの治療は、服用すれば完治するというお薬はなく、病気の進行を抑制するために日々、コツコツ取り組んでいただく治療が中心となっています。長い養生生活の中では時には失敗することもあるでしょう。そのために専門外来と専門家がいます。受診のたびに指導を受けて塩分制限が徐々にできるようになっていくような場面を目にすると私たちもとてもうれしくなります。こうした一つ一つの積み重ねが大切です。養生する生活を前向きにとらえていただきたいと思います。

患者さんには社会生活と治療を苦労なく両立していただきたいと思っています。その中で私たちもしっかりサポートしていきたいと考えています。

社会医療法人峰和会 鈴鹿回生病院 腎臓センター長 𡌛村 信介 先生

経歴

  • 1982年川崎医科大学卒業
  • 1982年天理よろづ相談所病院
  • 1987年ペンシルバニア大学医学部
  • 1987年川崎医科大学内科学(腎臓)助手
  • 1989年ロンドン大学ガイ病院クリニカルサイエンスアンドラボラトリー研究員
  • 1990年川崎医科大学内科学(腎臓)講師
  • 2000年三重大学医学部第1内科助手
  • 2002年三重大学医学部附属病院 腎臓内科・血液浄化療法部 助教授
  • 2006年三重大学医学部附属病院 病院教授
  • 2012年鈴鹿回生病院 腎臓センター長

運動がADPKDにもたらす効果
健康運動指導士ができること

北村 綱為 先生 健康運動指導士

腎臓病患者さんの運動指導のきっかけ

私は健康運動指導士という立場から、主に生活習慣病予防のため運動指導を行っています。

腎臓病の患者さんへの運動指導は、𡌛村先生との出会いからはじまりました。𡌛村先生が鈴鹿回生病院の腎臓センター長に就任された2012年、先生自ら腎臓センターの向かいにある私たちの運動療法施設を訪れてくださり「透析の恐れのある過体重の患者さんを、運動指導によって減量させて欲しい」との相談をいただきました。それ以来、𡌛村先生との連携のもと腎臓病の患者さんの運動指導を行うようになりました。これまで、𡌛村先生の依頼で運動指導を受けられた患者さんの多くが、体調が良くなり喜んで帰られているという印象を持っています。

生活習慣病に対する運動は薬とは違い即効性が少ないため、効果が出るまで継続することが大切であり、苦しい運動や無理な運動は必要ありません。できるだけ楽しみながら継続していただきたいと考えています。

ADPKDに起因する腰痛や高血圧の症状改善に一役

先ほど、𡌛村先生のお話にもありましたがADPKD患者さんは腰痛持ちの方が多いようです。のう胞による圧迫や、お腹が前に引っ張られることで腰痛が起こると考えられています。運動で腎臓そのものを治すことはできませんが、周囲の筋力を適度に鍛えることで、そのような腰痛を緩和することが期待できます。一般的に運動が腰痛に効果があることは腰痛の治療ガイドラインにも示されています。

また、適度な運動は、高血圧の治療で推奨されていたり、透析療法を受けている患者さんにおいても心拍数の低下を予防する効果があることなどが関連の治療ガイドラインで示されています。

個別に運動プログラムを作成し長期的にフォロー

ADPKD患者さん全般に対して推奨できるという運動はありませんが、「腰痛の有無」、「高血圧」、「過体重」、「筋肉量の少なさ」など、患者さんの状態をみたうえで個別のプログラムを組んで運動指導を行っています。

私たち健康運動指導士は、リハビリテーションを主に行う理学療法士や作業療法士とは別の資格です。𡌛村先生はADPKDを含む慢性腎臓病(CKD)の患者さんに対して積極的に運動を取り入れようとされていますが、保険診療の中での運動療法は日数制限があるなど、一時的なものとなってしまい運動習慣を育むところまで結びつけることが難しいのかもしれません。一方、私たち健康運動指導士が行う運動指導は、実施する場所もスポーツ医学専門の施設で長期的な運動の実施が可能です。慢性的な腎臓病の患者さんは継続的な運動の実施が大切である、という𡌛村先生のお考えのもと、腎臓病患者さんの運動については健康運動指導士が中心でサポートしています。

仕事も学校も両立していただく

𡌛村先生は、月一回開催している腎臓病教室にはほぼ出席されています。その際、患者さんから質問や相談を持ち掛けられたとき、足を止めてじっくりお話をされています。通常の診療とは別に、これだけ身近な存在でいてくださることは、患者さんにとってとても心強いのではないでしょうか。

また、患者さんが「何かに取り組みたい」というと、𡌛村先生はすぐにOKを出されます。基本的に「ダメ」ということはないようです。そこには「仕事も学校も両立していただきたい」という𡌛村先生の医療ポリシーがあるのでしょう。こうした先生の思いはチームで共有されています。

「患者さんのために」ということはメディカルスタッフ全員の共通の目標です。これからも健康運動指導士として、安全で効果的な運動を実施するための運動プログラムの作成や、運動指導を実施することで、患者さんのためになるサポートをしていきたいと考えています。

2016年12月作成
SS1701004

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