一覧に戻る

私のADPKD診療にかける想い

03 多発性嚢胞腎(PKD)と透析療法

常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)

両角先生

透析が必要となる腎臓病には、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎、腎硬化症などがありますが、日本の透析導入患者さんの3%程度が多発性のう胞腎が原因で透析を受けており、毎年約1,000人の方が透析治療を始めているという報告※1)があります。

当院では現在650人の患者さんが透析治療を受けておられますが、このうち多発性のう胞腎の患者さんで透析治療が必要となった方は、全国の比率と同様に3~4%の割合でいらっしゃいます。

多発性のう胞腎には、常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性のう胞腎(ARPKD)がありますが、大部分がADPKDです。

ADPKDは成人になるに従ってだんだん見えてくる病気で、最初は小さなのう胞がいくつかあるものが、年を経るに従い、どんどんのう胞が大きくなります。それに伴い腎臓の容積(サイズ)が大きくなってきます。普通の腎臓は握りこぶし程度の大きさですが、ADPKDでは大きい人では腎臓が5リットル(両方で10リットル)になることもあります。

合併症も多く知られており、生命にかかわる合併症として、脳動脈瘤を合併しやすいと言われています。当然破裂をすると、その結果としてくも膜下出血が起きるわけですから、タイムリーに治療ができない時や、程度がひどいと死亡するというリスクがあります。また、腎臓だけでなく、肝臓などの他の臓器にものう胞が出来ます。高血圧の合併が多いのも特徴です。先ほどお話しした通り、病気としては何十年にもわたって進む病気であるため、高血圧が持続すれば高血圧性の臓器障害が出てくる可能性が強くなります。その結果として、腎臓ののう胞のサイズ増大に高血圧の影響が加わり、腎機能低下が加速する事も考えられます。

※1):
わが国の慢性透析療法の現況2013年12月31日現在日本透析医学会

知っておきたい透析に関する正しい知識

両角先生

透析治療の概念について理解するとき、腎臓と他の重要臓器との違いを理解することが大切です。

たとえば透析療法を開始するときの腎臓の機能というのは10%以下です。eGFR※2)(推算糸球体濾過量)でいうと5~10mL/分/1.73㎡、血清クレアチニン値※3)でいうと8~10 mg/dLを目安として開始されます。ところが、このような数値の人であっても、ほとんどの人が学校に行ったり、仕事をしたりと通常の社会生活を送っています。

他の重要臓器と比較してみると、もし心臓や肺の機能が5%や10%であれば、息も絶え絶えで瀕死の状態です。脳の機能が5%はどうでしょう。考えたくもないですね。こう考えると腎臓は極めて特殊な臓器であり、たとえ腎機能が10%だったとしても見た目上、腎臓が悪いようには見えないのです。このような人に対して「あなたの腎臓はもう働いていません。人工透析が必要です」と伝えても受け入れていただくことは難しいでしょう。そこでは「腎臓が一割も機能していないのになぜ症状が出ないのか」という腎臓の特性をしっかり理解していただくことが大切なのです。それは取りも直さず透析がどのような役割を果すのかという理解へとつながるためです。

また、腎臓機能のすべてを透析で代償できるわけではありません。平均的な透析は週3回、1回に4~5時間ですから、1週間(168時間)で、12ないしは15時間しか代償しておらず、10%に満たない程度の不十分な代償であることがわかります。しかし10%分しか生活ができないわけではありません。つまり透析の役割は、透析開始前の保存期では腎機能が10%でも普通に近い暮らしをしてきたわけですから、さらに腎機能の低下が進み生命の維持が難しくなってきたとき、その不足分を代償するということなのです。これにより以前と同じように、場合によっては、もっと元気に暮らせるようになります。

※2):
eGFR 血清クレアチニン値、年齢、性別から推算するもので腎臓の機能を表す値 正常または高値…90 mL/分/1.73㎡以上 正常または軽度低下…60~89 mL/分/1.73㎡
※3):
血清クレアチニン値 基準値の範囲 男性…0.5~1.1mg/dL 女性…0.4~0.8mg/dL

多様性がある現代の透析

両角先生

透析には大きく分けて血液透析と腹膜透析があります。

血液透析は日本の透析患者さんの95%以上で行われている標準的な透析です。一般的なスケジュールとしては週3回、1回4時間~5時間、多くは日中に通院で行います。

物質除去を緩徐に長時間で増加させ、蓄積した老廃物が溜まる時間をより緩和するための透析が長時間透析です。長時間透析の定義は週6時間以上×3回で週18時間以上とされています。典型的なものはオーバーナイト透析(深夜透析)と呼ばわれるもので、夜22時から開始し翌朝6時まで8時間の透析を行います。朝、昼、夜の時間帯であっても毎回の透析時間を延長し長時間透析を実施できます。

病院ではなく自宅で透析を行う在宅透析(家庭透析)もあります。これは透析回数・透析時間・時間帯などをご自身で選択できるため自由度が高く効率も良いと言えます。

患者さんご自身の腹膜を使って行う腹膜透析にはCAPD (Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)という、日中に1日4回のスケジュールで透析液を交換するものと、APD (Automated Peritoneal Dialysis)という夜間に機器を用いて行うものがあります。

現在、増えている透析が、腹膜透析をベースにしながら血液透析を週に1回~2回行うハイブリッド透析です。腹膜透析で除水効率が悪く体重が落とせない人や水が溜まってしまう人、あるいは透析の物質除去効率が悪い人などが主に対象となります。

最も多い血液透析のスケジュールは、週3回で、月・水・金、もしくは火・木・土の通院タイプです。時間帯はそれぞれの患者さんの日常生活のパターンに合わせて決定します。

近年、腎移植の医療技術も非常に進歩しており、透析療法とともに腎移植も腎機能を回復する選択肢の一つとなっています。

透析治療の導入において、まず考えていただきたいことはご自身がどのような生活をしたいのかということです。現在の人工透析は多様性があり、また腎移植も進歩しています。患者さんに十分納得いただき、またご自身の生き方、生きがいなども考えて治療法を選択していく必要があります。

川元さん

保存期の患者さんからよく耳にすることは、やはり「透析はやりたくない」という言葉です。保存期から透析へスムーズに移行するためには、やはり、きちんとした透析に関する情報を、私たちから発信していくことが大切だと考えています。

現在の透析は多様性がありますのでそれらの説明をしたうえで、夜間が良いとか、お仕事の都合などのご要望を聞いて、それぞれの患者さんのライフスタイルに合わせて提案しています。

以前からずっと貧血だったり、毒素が溜まった状態であったりという症状をお持ちだった方は、透析治療を行うことでかなり元気になられます。患者さんご自身からも楽になったという声が多く聞かれます。

また、透析を受けている患者さんは、1日4時間、ずっとじっとしていなければならないという辛さや、長期間透析治療を受けている方では合併症に対する苦痛の声も聞かれます。そのような場合、患者さんの気持ちに寄り添いながら透析中の時間を利用して話を聞いたり、適時指導に入らせていただいています。透析患者さんも高齢化が進んでおり、独居の患者さんでは施設や訪問看護・訪問介護とのやり取り、ご家族の方とは交換ノートによる情報交換を必ずさせていただいています。患者さんひとり一人に合わせた形で行っています。

透析とADPKD

両角先生

ADPKDは遺伝学的には 2分の1の確率で親からお子さんへと遺伝します。診断としては遺伝子検査をすることはなく、家族歴と画像診断で確実に診断できます。そうなるとお子さんへの画像診断検査をいつ行うかということが難しい課題となります。その時期についてはきちんとしたガイドラインがありません。

ADPKDの画像診断は10歳を越えれば可能ですが、その年代のお子さんとしてはADPKDであることを受け止められませんよね。中学、高校、大学入学という、自分の進路を決めなければいけない大事な時期にストレスは与えるべきではないと私は思います。ADPKDを受け入れられることが可能な年齢があると思います。

学校を卒業したあと、就職をしたあと、女性の場合ですとお子さんに病気が遺伝する可能性がありますから妊娠の時期というのがその時期にあたるのではないでしょうか。そのような時期に「検査をされますか」という相談を、お子さんではなく外来通院中の患者さん、あるいは透析治療を受けている親とさせていただきます。どのような性格のお子さんで、どのくらいのことを受け止めることができるのか、そのようなことをうかがったうえで検査の時期を判断しています。

慢性腎不全の治療に対する想い ~ミッションは腎機能を低下させないこと

両角先生

一般的に慢性腎不全の治療には、食事療法が厳しくて辛いというイメージがあります。確かに一番継続することが難しく実際に行うことに工夫がいる食事療法であることは間違いありません。ところが現在は管理栄養士さんの介入や特殊食品などで非常に緩和されてきています。たとえば10日間がんばったら11日目は緩めるという工夫も可能です。そのようなことができる現状であることをぜひ分かっていただきたいと思います。

川元さん

当院で「ますわ会」という慢性腎不全の保存期の患者さんを対象にした会を開催しています。1カ月に4回の開催で調理実習と保存期に関連した講義を行っています。調理実習は管理栄養士がメインで担当し、講義は医師からの腎臓や透析の話、看護師や他職種のスタッフからの専門的な話、例えば薬剤師からは薬の必要性や管理面の話など、検査技師からは検査データの見方についてアドバイス的な話をしています。このような色々な観点からの情報提供を行っています。参加されている患者さんはとても楽しんでおられるご様子で、何年も続けて来られている方も多くいらっしゃいます。

両角先生

ADPKDの治療は、患者さんと長いお付き合いになります。今はADPKDに有効な治療薬もありますので、相談できる医師や看護師と一緒に適切な治療法を考えながら歩んでいきましょう。ADPKDでは、まずは血圧の管理が大切です。ご自身の血圧の管理と共に、お子さんの血圧も時にはチェックすると良いと思います。親の習慣は子供も受け入れやすいですよね。

慢性腎不全に対して、もちろん治療結果が一番大事なことですが、私たちは患者さんの治療の満足度を大切にしています。その時のポイントにしていることは根拠に乏しい生活の制限をしないということです。腎臓の機能が悪ければ、食事のコントロールは必須ですので食事療法は行います。しかし、どこまで運動制限をしたら良いのかとか、仕事をどこまでセーブしなければいけないのか、ということに関しては、根拠となるデータはありません。だったらやりましょうよ、あなたの持っている能力や可能性がより大きくなるならやればいいじゃないですか。もしその中でトライしてみて、難しそうであればやめましょうとお伝えしています。できる限り可能性が大きくなるようにチャレンジしませんか、というのが私たちの提案です。

不幸にして末期腎不全に至って、透析療法や腎移植を行うことになったとしても、患者さんが「こんなに頑張ったのだから悔いはない」と思えるような治療を一緒に行いたいと考えています。

特定医療法人 衆済会 増子記念病院 理事長 両角 國男 先生

経歴

  • 1973年名古屋大学医学部 卒業
  • 1973年名古屋港湾福利厚生協会臨港病院
  • 1976年名古屋大学医学部第三内科
  • 1983年名古屋市立大学病院人工透析部 講師・助教授
  • 1990年スイス・バーゼル大学病理学研究所
  • 2002年名古屋第二赤十字病院 腎臓内科部長・副院長
  • 2014年衆済会 増子記念病院 理事長
このページの先頭へ