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私のADPKD診療にかける想い

02 患者さんに正しい知識をお伝えし、ベストな治療法を一緒に考えていきたい

米国でPKDの原因遺伝子を発見、帰国後は第一線臨床医として診療に専念

ADPKD患者さんとの出会い

私が主治医としてADPKD患者さんにはじめて出会ったのは、腎臓内科医としての研修をした病院でした。患者さんには息子さんがおられ、検査をしておいたほうが良いとの判断で、エコー検査を直接私が行いました。その際、のう胞が見つかり、遺伝していることが分かったのですが、どのように伝えれば良いのか分からず、あいまいな言葉でしか伝えられなかったことを覚えています。

遺伝子研究だけでなく患者ニーズに応える臨床学を習得

卒後、6年目に米国へ留学する機会を与えられ、「遺伝性腎疾患」の研究に取り組みました。はじめは、遺伝性腎炎であるアルポート症候群の遺伝子変異研究を行いましたが、留学の後半は、PKDの原因遺伝子の研究を行い、帰国直前にその遺伝子を発見することができました。

3年あまりの留学期間を経て帰国しましたが、日本では米国で研究をしていたこともあり、多くのADPKD患者さんが私のもとに集まるようになりました。しかし、当時は遺伝子の研究はしていたものの臨床経験は少なかったため、臨床学にも果敢に取り組みました。

診療ではADPKDを正しく理解していただくことを重視

遺伝性の病気であること

ADPKDの診療では、正しい知識を伝えることが重要であると考えています。ただ、遺伝性ということに関しては、それぞれの患者さんで受け止め方はまったく異なりますので、患者さんひとり一人で考えていく必要があると思っています。

全身性疾患であること

また、ADPKDは腎不全が主な臓器障害といえますが、高血圧、脳動脈瘤、肝のう胞などさまざまな病態を合併することがあります。特に脳動脈破裂によるくも膜下出血は致死的な合併症であり、破裂予防のためのスクリーニング検査は必須のものと考えています。脳動脈瘤を持つ家系の方は、早く診断をして、検査を行ってほしいと考えています。

高血圧もさまざまな合併症を起こします。心血管系の合併症を併発しないために早めの段階から適切な治療を行っていただきたいと思います。

遺伝性という背景により、病気が早くわかることを前向きに捉えてほしい

腎臓では、のう胞感染や疼痛、血尿などがありますが、腎不全に至るまでの過程には、かなりの時間を要します。そのため長期的な戦略をしっかり立てて、じっくりと付き合っていくことができます。しかし、くも膜下出血や脳卒中、心筋梗塞などの合併症はその過程の中で突発的に起こってきます。

このような合併症が起きれば、たちまち人生が変わってしまいます。遺伝性と聞くと、とかくマイナスイメージを受けるかもしれませんが、逆にいえば病気が早く分かるきっかけになるわけです。むしろ遺伝性という特殊な背景により、早期に分かることを前向きに捉えて、適切な診療を早めに受けていただきたいと思います。

ADPKD の治療の意義

ADPKDと診断されたら、合併症のチェックから始まります。必要であれば、その治療を行っていきます。高血圧、脳動脈瘤だけでなく、そこで判明した生活習慣病も治療の対象になります。

腎臓については、遺伝子の発見、さらに病態解明が進んだことにより、特異的な治療薬が承認されるまでにいたりました。根本的な治療ではないものの、のう胞増大を抑制する画期的なものです。まだ始まったばかりの治療ではありますが、その効果を実感していますし、さらなる効果を期待しています。

患者さんが前向きに病気と向き合っていただくために心がけていること

患者さんから学んだことと診療方針

これまで診療をしていく中で、患者さんにも多くのことを教えていただきました。腎臓の病気は症状が出ないことが多いのですが、ADPKDでは、腹部膨満感をはじめ、腹痛・腰痛などの痛み、のう胞感染による高熱、血尿などさまざまな症状が出現することが多く、また、遺伝性という側面からも患者さんの抱える不安が大きいことが分かってきました。

そこで、まず大切なことは話をよく聞き患者さんの置かれている状況を把握することです。次に説明が必要な場合、噛み砕いて分かりやすく正しい知識を伝えること、そこでは一方通行ではなく、患者さんに理解してもらうことを目標にしています。そして、最後に、これからのこと(人生)を患者さん、ご家族と一緒に考えていくことを心がけています。

治療につながる「できるだけのこと」を提案

ADPKDにおいてバソプレシンという尿を凝縮するホルモンの作用により、進行が早まることが分かってから、私は「水分摂取を十分にすること」を患者さんにお話してきました。その中で、仕事の関係上、水分摂取をしてこなかった患者さんが、水分摂取を意識したところ、その進行速度が、新しい治療法の適応基準を満たさないほど抑制されていたケースがありました。すべてというわけではありませんが、こうしたことを実行すればこのような良好な結果が得られることがあります。また新しい治療法を開始した患者さんで腎容積が著明に縮小したこともありました。

脳動脈瘤が見つかって予防的に手術できた患者さんも数多くいらっしゃいます。こうした方に検査をしなかったらどうなっていたかを考えると、検査を進めて本当に良かったと思います。

長い人生ですので、患者さんには「できるだけのこと」をしていただきます。その中で私たちもしっかり見守っていきたいと考えています。

この病気は同じ家系であっても、病気の進行はさまざまです。取り組み方次第で変わってきます。人間は誰しもがいずれは何かしらの病気と直面するものです。遺伝という運命に導かれ、早めに自分に起こりうる病気を知ることにより、対策を立てられることを前向きに受け止めていただきたいと思います。つらいことがあることも承知していますが、私たちは、そのような患者さんに正しい知識をお伝えして、ベストな治療法を選択できるように一緒に考えていきたいと思います。

東京女子医科大学 第四内科 講師 望月 俊雄 先生

経歴

  • 1987年岡山大学医学部卒業
  • 1987年東京女子医科大学腎臓病総合医療センター内科
  • 1992年米国エール大学腎臓内科留学
  • 1993年米国アルバートアインシュタイン医科大学腎臓内科留学
  • 1995年東京女子医科大学第四内科助手
  • 2000年北海道大学医学部附属病院第二内科助手
  • 2002年北海道大学大学院医学研究科内科学講座・第二内科 講師
  • 2010年東京女子医科大学第四内科講師
  • 2016年東京女子医科大学 多発性嚢胞腎病態研究部門 特任教授

病気とうまく付き合っていただくために…
私たち看護師ができること

藤岡裕美子 さん 看護師

ご家族みんなで治療に臨まれている

私は腎臓内科病棟に勤務しており、いろいろなADPKD 患者さんやそのご家族と出会います。その中にADPKD を遺伝したお姉さんとしなかった妹さんのご家族がいらっしゃいました。どちらも複雑な心境だと思うのですが、遺伝していない妹さんがお姉さんをとても献身的にサポートされている姿を見て、その絆に感動したことがあります。また、ご兄弟が腎移植のドナーとなるケースもあり、この病気にご家族みんなで向き合って治療に取り組まれている姿を多くお見かけします。

より適切な治療を提供するために

私が病棟勤務をしていて、日々意識していることは、入院中だけではなく、退院後に必要な管理についてもしっかりお伝えすることです。薬を飲む時間もそのひとつで、患者さんのライフスタイルに合わせ、一日の生活においていつ服薬すれば支障がないかということを考えて、服薬時間を調整しています。薬のことですので当院の薬剤師とも相談して、薬の飲み合わせについての注意事項も一緒に患者さんへお伝えしています。

そのような情報を患者さんに適切にお伝えするために、望月先生に看護師向けの勉強会を開催していただきました。薬の副作用をはじめ、患者さんがADPKDという病気とうまく付き合いながら生活してもらううえで、どのようなことに気をつけもらえばよいかを具体的に分かりやすく教えていただきました。新しい治療が始まるときは看護師も事前に必要な情報を認識しておく必要がありますので、事前の勉強会はとても助かりました。

こうした看護師への勉強会の開催も患者さんに適切な医療を提供しようとする望月先生のお考えからなのでしょう。また、病棟での勤務を通じて日々感じるのは、患者さんにとって、医師が顔を見にきてくれることはとても安心できることだということです。望月先生は患者さんから「先生も忙しいでしょうから」と言われても、必ず病室にいらっしゃいます。患者さんを大切に想われている望月先生のお人柄がうかがえます。

医療の進歩は目覚しい。ぜひ専門医にご相談を

ADPKD患者さんの中には、親御さんがすでに透析を受けておられ、透析のイメージを持たれる方も多くいらっしゃいます。透析導入を少しでも先延ばしにできる治療があることや、日常生活で気をつけることなどを入院中に私たちからしっかりお伝えしていきたいと思っています。

医療は日々進歩しています。私自身、新しい医療に携わることができるのは、看護師を務めるうえで大きな学びであり財産となります。患者さんにとっては、最前線で診療している専門医に相談することはとても大切なことだと思いますので、ご心配なことがあればぜひ、専門の先生を受診していただきたいと思います。

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