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専門家からのメッセージ

第6回 ADPKD診療の新たな門出 ~親から子への伝え方~

西尾 妙織先生

親から子へ、ADPKDという病気のことを、いつ、どのように伝えるか 親から子へ、ADPKDという病気のことを、いつ、どのように伝えるか

ADPKDという病気は、若い頃には自覚症状がないため、親から病気について何も知らされておらず、かつ健診で特に異常が指摘されていない場合、多くの患者さんはこの病気であるとは気づかずに過ごしていらっしゃいます。また、病気の発見のされ方や確定診断の経緯、診断結果の受け止め方については、患者さんごと全く異なります。こうした違いをもたらす要因の一つが親から子への病気の告知です。幼い頃から親の通院に付き添ったり、家庭内でこの病気について話し合われたりしている家庭のお子さんは、一定の年齢に達して検査を受け、その結果ADPKDと診断がついた場合も、比較的冷静に結果を受け止めています。一方、親からこの病気について何も知らされていなかったお子さんの場合は、診断時に初めてこの病気のことを知り、かなりのショックを受けています。
以前当院においてADPKD患者さん100人を対象としたアンケートを実施し、「お子さんに病気の告知をするか(あるいは、既にしたか)」、「お子さんが何歳の時に告知をするつもりか(あるいは、したか)」について調査しました。多数を占めたのが、20歳以上(30歳、40歳)で、多くの親御さんは、お子さんの成人を機に病気について告知を行いたい(行った)という回答でした。「子どもに病気のことを話したいのだけれど言い出せない」という方ももちろんいらっしゃいました。また、小学生、中学生の子どもへの告知は非常に少ないという結果も得られています。当院では、この病気のことを親から子へどのように伝えるか、またその時期については各ご家庭の判断に任せて、どういった状況で患者さんがいつ受診されてもサポートできる体制を調えています。

脳動脈瘤のある家系のお子さんは、早めに検査を 脳動脈瘤のある家系のお子さんは、早めに検査を

病気の告知は各ご家庭の判断に任せていると先程お話ししましたが、脳動脈瘤のある家系の場合に限っては状況が異なります。脳動脈瘤は、腎機能の良し悪しに関係がないADPKDの合併症の一つで、ある日突然破裂し、死亡や重い後遺症(麻痺など)をもたらす恐れのある病気です。ですから、家族に脳動脈瘤になった人がいる場合は、お子さんがADPKDであるかどうか、脳動脈瘤の有無について早めに検査する必要があります。

お子さんも一緒に家庭での血圧測定を習慣化 お子さんも一緒に家庭での血圧測定を習慣化

高血圧を合併している患者さんに対しては、「高血圧治療ガイドライン2014」に従って130/80mmHg未満にコントロールするよう指導しています。収縮期血圧が180mmHgにもなると頭痛などの症状が現れますが、140~150mmHgでは自覚症状がありませんので、日頃からご自宅で血圧を測定し、自分の血圧値を把握することが大切です。
なお、当院では、家庭で測定する血圧に異常を認めた場合は、半年に1度、1年に1度の受診スケジュールの患者さんであっても、予定している予約を早めて病院を受診するようお伝えしています。
また、お子さんにこの病気のことを伝えていないご家庭であっても、血圧を測定する時に「お母さん(お父さん)と一緒に測ろうか」とお子さんを誘って、家族全員で血圧測定を習慣化すると良いと思います。測定の結果、お子さんの血圧が140mmHgを超えているようなら、病院でADPKDの検査を受けさせてください。ADPKDでなかった場合でも若い方の高血圧は原因を調べる必要があります。家庭での血圧測定は、お子さんの病院受診の動機づけとして非常に有効だと考えています。
日頃の食生活については、「エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン 2013」に従って6g/日未満の食塩摂取とするよう指導しています。なお、たんぱく質制限については、腎機能障害が進行した段階で摂り過ぎに注意するよう伝えるにとどめています。「腎臓が悪い人は、たんぱく質を摂り過ぎてはいけない」とよく言われますが、ADPKD患者さんにおいては、たんぱく質摂取制限が腎機能障害の進行を抑制したといった明らかなエビデンスはありません。

新しい治療薬登場により変化した、患者さんのADPKDへの向き合い方 新しい治療薬登場により変化した、患者さんのADPKDへの向き合い方

ADPKDに対しては根本的な治療がないために、高血圧症を合併している方に対しては血圧管理、動脈瘤を合併した場合はその治療を行うなどの対症療法しか行われませんでした。
昨年誕生したADPKDに対する新しい治療薬は、根本的な治療法ではありませんが、透析導入を遅らせる効果が期待されています。親御さんや祖父母が透析で辛い思いをしている患者さんほど、一分一秒でも透析を先延ばしにしたいとの思いがあり、この治療薬の誕生に大きな意味を見出されています。現時点ではまだ新しい治療薬の使用経験が浅いため、具体的にどれくらい透析導入を先延ばしにできるか明言はできません。しかしながら、少しでも長く透析なしに生活が送れる可能性があること、そういう治療の選択肢を持てたことは素晴らしいことだと思います。
また、この治療薬の誕生は、親から子への病気の告知の面においても大きな影響を及ぼしました。治療法がなかった時代は、「子どもに病気のことを話したところでどうすることもできない」との考えから告知を躊躇していた親御さんが、「治療法があるならば、子どもが病気であるかを早く調べよう。そしてもしADPKDであるならばすぐにも治療を受けさせてやりたい」と考えるようになったようです。実際、この新しい治療薬が登場してから、当院を受診するADPKD患者さんの数は増加しています。

直面するさまざまな問題は、医師と相談して解決の糸口を見出す 直面するさまざまな問題は、医師と相談して解決の糸口を見出す

ADPKDの患者さんは真面目な方が多く、血圧管理など医師が伝えた内容を遵守してくださり、医師患者間で良好な信頼関係が築けています。ADPKDは治療経過の長い病気ですので、経過観察中に腎機能障害の進行、血圧値の上昇といった病状の悪化に直面することもあります。その際ですが、多くの場合は理由がありますので、是非医師と一緒になってその背景にある原因を検討してみてください。患者さんには、病気や治療にかかわるさまざまな問題を、その都度医師に相談することでクリアし、安心して治療を継続していっていただけたらと思います。

西尾 妙織 北海道大学病院 内科Ⅱ 診療准教授 西尾 妙織
北海道大学病院 内科Ⅱ 診療准教授

1995年3月 旭川医科大学医学部医学科 卒業
1995年4月 北海道大学医学部 第二内科 入局
2005年4月 米国エール大学 腎臓病部門 研究員
2008年4月 北海道大学病院 第二内科 助教
2015年4月 同 内科Ⅱ 診療准教授
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